短編

□囁きは甘美に響く
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『ごめん、その日イベントがあるから無理』

「…………」





そう飄々と宣いながらこちらを見向きもせず手元の携帯ゲーム機に集中する名前。

あまりにも平然と、それがまるで当たり前の事のように言われ、私は思わず二の句が告げなかった。


彼女は確か……私の恋人の筈です。

いや、筈ではなく間違いなく恋人です。

あの告白をした日の事は今でも鮮明に脳裏に甦りますから。


生まれて初めて、異性に告白をしました。

我が人生16年間で女性を好きになったことなど無いに等しい。
寧ろ彼女が初めて、所謂初恋というやつです。

勿論最初は戸惑いました。
自分以外の人間をこんなにも想った事など初めてでしたから。


そんな私を、彼女は受け入れてくれた…筈なのですがこの状況は何なのでしょう。


仮にも恋人がデート(心の中で言葉にするのも少し恥ずかしい)に誘ったというのに、彼女は先程の素っ気ない一言で終わらせてしまった。


いや、100歩譲って用事があって断るのはまだいい。
けれど、断るにしてももう少し言い方というものがあるのではないかと思うのは私だけなのでしょうか。

折角明日はお互い久々に用事もない休日だというのに。(芸能人という職業柄、私も彼女も休日が不定期なのです)


どこかへ行かなくとも(彼女はとても出不精なので)家で名前と二人、のんびり過ごせると楽しみにしていたというのにこれだ。



…休日の予定をきちんと確認しておかなかった私にも非があると思わなくもありませんが、これは些か酷いと思うのは私の心が狭量だからか。

しかもその予定というのが彼女の好きなゲームのイベントだというのだから更に面白くない。


寧ろ憤りを感じます。


何ですか、私の誘いを断ってまで他の男(※ゲームのキャラクター)に会いに行くというのですか。

もうこれは浮気ですよね。
相手がゲームのキャラクター?関係ありません。

私の恋人だというのなら私だけを見るべきではないですか。




『…トキヤ?』

「っ!」




等々考え込んでいると、先程までゲームに釘付けだった名前が私の目の前にいた。

小首を傾げながら見上げてくる彼女に不覚にも顔の熱が上がっていく。(手にまだゲーム機があることに多少イラっとしたのは内緒です)

やっと反応したねーなんて呑気な笑顔を浮かべる彼女にすらときめく私は末期なのでしょうか。

恋の病とは本当によく言ったものです。




「な、何ですか…」

『いや、それはこっちのセリフ。いきなり直立不動のままこっち見てきたら誰だって気になるでしょう』




トキヤって頭いいのに時々アホだよね〜(失礼な!)

クスクス笑った後、ふとその綺麗な瞳が私を見つめてくる。


私は、彼女のこの瞳を愛しく思う反面――――少し苦手だ。


まるで、私の狭量な心内を見透かしてしまいそうな澄んだ瞳に思いの丈をぶつけてしまいたくなる。
だから、私はそれから目を逸らして彼女に背を向けた。





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