とあるマネージャーの青春物語

□『一緒に、日本一目指そう?』
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緑色の彼――基、緑間真太郎は珍しく早く終わった部活の後、愛用していたテーピング用のテープが切れていたことを思い出し、街へ繰り出していた。

勿論、本日のラッキーアイテム白いリボンのテディベアを持って。


その途中、どこから飛んできたのか野球ボールがテディベアに当たってしまいそれを落としてしまったのだ。
あり得ないのだよ!


それを探している最中に現れ、届けてくれたのがリオだ。


因みに何故彼女の鞄についている猫のぬいぐるみのキーホルダーをここまで凝視しているのかというと、今日おは朝で言っていたことが原因だ。




《――本日の12位はかに座の貴方っ行く先々で失敗してしまうので注意しましょう。
でも大丈夫!そんな貴方のラッキーパーソンは猫のキーホルダーを付けた人!その人が射手座ならば言うことはありませんっ一緒に居ることで幸福を分けてもらえるでしょう》



おは朝信者と呼ばれる(本人非公認)緑間がそれを見逃すはずもなく、曰く人事を尽くすためリオに向き直る。

いきなり黙りこんだかと思えば、かなり真剣な眼差しでこちらを見下ろしてきた緑間にリオはビビりまくっていた。

元来ヘタレでビビりなリオにとって背が高いというだけで恐怖の対象となってしまう。


オマケに当たり前といえば当たり前なのだが、現在リオの緑間に対する印象はただの変人だ。

小動物の様に全身をプルプル震わせながら既に涙目なリオの様子に流石の緑間も気付いたのか、ギョッとする。




「なっ何故泣くのだ!?」

『ご、ごめんなさい、ごめんなさいぃ〜』

「何故謝る!?とっとにかく泣き止んでくれっ」

『は、はいぃ…っ』




別にまだ泣いてはいなかったのだが、緑間に怒鳴るように言われその拍子に溜まっていた涙が溢れてしまい、結果的に泣いてしまった。
端から見たら緑間が泣かしている様な状況だ(ほぼ正解)

まさか泣かれるとは思わず、緑間は地味にショックを受けていたりする。


オレは…そんなに怖いのか?


自問する緑間には気付かず、リオは相変わらず緩い涙腺をなんとかしようと懸命に両手で涙を拭う。


ゴシゴシと両手で目元を擦る仕草は小動物が毛繕いしている様で。
その姿はとても庇護欲をそそられる。


そしてそれは緑間も例外ではないらしかったらしい。




「――――…」




なんだ、この感覚は。
今、この女子の頭をものすごく撫でたいと思ってしまった。



名も知らぬ初対面の女性に対して緑間は初めてそんなことを思う。
寧ろ女性に対してそんな風に思うこと事態初めてかもしれない。


緑間は無意識のうちにリオの頭を出来る限り優しく撫でた。

ポンポン、と不器用ながらも気遣ってくれているのが伝わるソレに驚き、リオは目を丸くして緑間を見上げる。

潤みの増した瞳と視線が合わさり、思わず息を呑んだ。
太陽の光に反射して輝くそれが不覚にも――――とても綺麗だと思ってしまった。


今度は怖がらせないようにぎこちなくではあるが、口元に薄く笑みを浮かべる彼はちょっと変わっているだけで悪い人ではないらしい。

そうと分かると自然と涙も止まり、リオもへにゃりと笑顔を浮かべた。
野生の猫が擦り寄ってきてくれた時の妙な達成感である。




『あの…失礼しました』

「構わない。その…こちらこそいきなりすまなかったな」




あの緑間がここまで殊勝な態度を取るのは泣かしてしまった罪悪感かはたまた別のなにかか。

それは分からないが、普段の彼を知る者が見たら間違いなく目を剥くだろう。


そんな事微塵も知らないリオはいつも通りのふにゃりとした笑みで答える。

どうやら緑間に対する警戒心や恐怖心は薄れたらしい。
単純なおつむである。




「名を…聞いてもいいだろうか?」




基本的にビビりだが、慣れると人懐っこいリオ。
緑間の問いに快く頷く。




『うんっ常葉リオだよ〜。誠凛高校2年生です!』

「オレは緑間真太郎。秀徳高校1年なのだよ……ん?」

『………え、』



間。



『「年(下/上)なの(か)!!!?」』




まさかの互いに抱いていた印象とは違う学年に驚愕する二人。

そしてお互いに失礼である。

目を瞬かせた後、リオは可笑しそうにクスクス笑い出す。




「なっ何がおかしい、の…ですか」

『フフ…いーよ、無理に年上扱いしなくても。
上に見られないのってよくあることだしね〜』




変人だが、基本的に真面目な緑間はリオが年上だとわかった途端敬語を使おうとしてくれる。
大分無理をしているようだが。


それが伝わったのか、緩く首を横に降って大丈夫だと笑う。

柔らかく微笑むリオを見ながら緑間はよく笑う人だ、と思った。
先程まで己に対して怯えながら全身を震え上がらせていたというのに、同じ人間に対してこの変わり様。

緑間にとって初めて接する人種なのだろう。

戸惑うものの、何故か不快には感じない不思議な年上。

彼のイメージする年上の女性像とはまるで逆の印象だというのに、何故か目が放せないと思ってしまった。




『?緑間くん…?』




首を傾げる仕草が益々年上には見えないが、これはこれでとても愛らしい。

それをずっと見ていたいような気分になり、緑間は慌ててその思考を消す。


初対面同然の相手に何を考えているのか。


ずれてもいない眼鏡を片手で直しながら、努めて冷静に口を開く。




「…では、リオさんと呼ばせてもらうのだよ」




なにが“では”なのかは分からないが、彼は自分が思うほど冷静にはなりきれなかったようだ。
緑間の突然の発言に目を丸くした後、リオは嬉しそうに頷いた。

細かいことは気にしない性質らしい。

そんな嬉しそうな笑みが緑間の胸の内を波立たせる。

緩やかに、確実に。



そんな彼女の笑みに当てられたのか、緑間も薄く笑みを浮かべるのだった。




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