とあるマネージャーの青春物語

□『一緒に、日本一目指そう?』
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翌日――月曜日の8時30分、リオが言われた通り屋上へ赴くと既に来ていたリコがこちらへ向き直る。




「おはようリオっ時間ぴったりね」

『チャオ〜リコ。どうしたの、今日は?』




言いながらリコがいるフェンスへ近付くと、校庭に朝礼の為に生徒や教師が集まっているのが見える。

リオがこの光景を見るのは2度目だ。

1度目は高校に入学してすぐ、バスケ部のみんなと――…。


そこまで考えて、まさかとリコへ振り返る。
彼女はいつもの強気な笑みを浮かべ、満足そうに頷く。




「普段ボンヤリしてるくせにこんな時だけ鋭いわね、リオは」

『ちょっヒドイ言い草!!』




冗談よ、と笑いながらリオの頭を撫でる。


普段、長身な男子の中にいるせいか、自分よりも少し背の低いリオはリコにとっても可愛いのだ。

勿論可愛いだけでなく人としても尊敬しているし、信頼できる一番の親友でもある。


ただ、からかうといつも楽しい反応を返してくれるからついついあんな言い方をしてしまうのだ。

それをリオも分かっているのだろう、頭を撫でてやるとすぐに寄せていた眉が元に戻り、いつもの気が抜ける笑みを浮かべた。




『まさか、アレは恒例になるのかな?』

「ふっふ〜」




勿論。
そう言わんばかりの不敵な笑みで答えるリコにリオはこれからやって来るであろう1年生(被害者)に同情を禁じ得ない。


だが、同情はするが止めようとは思わなかった。

これから行うことは中々勇気がいる。

それを乗り越えてでも一緒に頑張ってくれる――覚悟がある――人を今のバスケ部は求めているのだ。

中途半端ではない、真剣な思いを抱く仲間を――。





ガチャリ。屋上のドアが開く音が響き、リオはそちらへ視線を向ける。

予めドアへ向かって仁王立ちしていたリコの肩越しに最初に見えたのは、爽やかな程の空色と大きな赤色。

これから始まる肝試しにリオはいつものふにゃふにゃした笑みではない、不敵な表情を浮かべた。









「フッフッフ、待っていたぞ!」

『やぁ、みんなおはよ〜』




まるでこれから最終決戦でも始まりそうなリコの発言に火神は呆れ、黒子も思わず決闘?とつっこむ。
その後ろでフェンスに凭れながら気の抜けた挨拶をするリオ。
状況は物凄くカオスだ。

黒子達以外の1年生は状況に付いていけず、戸惑っている。


あと5分で朝礼が始まるのだから早く本入部届けを受けとれと怒鳴る火神にリコは待ったをかけた。

本入部届けを受けとる前に、どうしても確認しておくべき事があるのだ。



それは、


「全国目指してガチでバスケをやること!
もし覚悟がなければ同好会もあるからそっちへどうぞ!!」




覚悟をしてもらうことだ。

どんなに才能があって強くても、練習を真面目に積んでも覚悟がなければそれは意味がない。

いつかの夢物語ではなく、今の目標《日本一》を胸に抱く事。

そして、それを実現させるための強い意思が必要なのだ。




『だから、今ここから学年とクラスと名前と〜今年の目標を宣言してもらいまっす!ちなみに私達含め今いる2年生のみんなも去年やったんだ』

「さらにできなかった時はここから今度は全裸で好きなコに告ってもらいます!」

『成就の見込みは限りなく0になるねぇ』

「「「ええぇぇぇ!!!?」」」



盛大に動揺する1年生達と呆れた表情の火神と黒子。

どよどよと狼狽える1年生達にリコは畳み掛けるように目標は具体的かつ相当高い内容を求めた。


戸惑いを隠せない1年生達にリオは諭すように口を開く。




『…それが嫌だったら止めた方がいいよ。
楽しむだけのバスケがしたいなら、ウチはツラいだけだから。
――でも、それでも一緒に頑張ってくれるっていう子は大歓迎だよ』




一緒に、日本一を目指そう?


いつもふにゃっとした表情ばかりするリオが、まっすぐ黒子達を見据える。
その瞳にはバスケに対する並々ならぬ想いが溢れているようで、見る者誰もが息を呑んだ。




「上等じゃねーか」



ソレに触発されたように火神はニヤリと口元を上げる。

そんな熱いものを見せられて、黙っているなど出来ない。
元よりこんな事、彼にしてみれば度胸試しにすらならない。

血がたぎる様なバスケを求め、ここに入部しようとしているのだ。

それを今更宣言するなど、欠伸をする様なもの。
寧ろ同じ部にこんなにもバスケに熱い者がいるのなら、やる気が出ないわけがない。


火神は戸惑う他の1年生達など目もくれず、リオの隣に立つと器用にフェンスへ飛び乗った。




1ーB 5番!火神大我!!《キセキの世代》を倒して日本一になる!


『…おぉ〜』




突然の大声に、校庭に集まった生徒達は屋上を見上げながらざわめいた。

これから退屈な朝礼が始まるというときにこんなハプニングが起きたのだ。

ある意味、宣言は効果絶大である。


ざわざわと話が飛び交う生徒の中から日向達を見つけると、リオはサボりの身でありながら堂々と手を振った。




「常葉…いないと思ったらあそこにいたのか」




つーかあんな堂々と姿を見せていいのか?

呆れの滲む笑みを浮かべながら、リオと同じクラスの伊月は小さく手を降り返す。

それに気付いたのか、嬉しそうな笑みを浮かべる彼女に口元が緩んだ。





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