短編

□囁きは甘美に響く
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「…なんでもありません」



何でもないわけがないのに、結局彼女に嫌われることを怖れて物分かりのいい恋人を気取る私はとても滑稽で。

彼女が好きで、ただ傍に居たいと願うだけなのに、それを口にすることが出来ない。


どうして自分はこうもプライドが高いのだろうか。

もしもこれが元同室の音也ならば、きっと素直に感情のまま振る舞うことが出来るのだろう。


そう考えると更に気分は沈み、これ以上ここに居ては不用意に彼女を傷付けてしまうのは目に見えているので部屋を出ようとドアノブに手をかける。



その瞬間、背中が心地の良い体温に包まれた。




「――…名前?」




背中から伝わる体温、胸元に回された華奢な腕は確かに名前のものだ。

名を呼ぶと、胸元に回された手がポンポンと優しく叩かれる。
まるで、慰めているように。




『トーキヤ』




ただ名を呼ばれただけ。

しかしその声音には“我慢しなくてもいいよ”と含まれているようで。

今まで堪えていたものが一気に溢れ、回された腕を掴んでその存在を思いっきり抱き締めた。



思えば、こんなに乱暴に彼女に触れたのは初めてだ。

いつもは常に一定の距離を保ちつつ、触れ合いも余程気分が盛り上がっている時にしか出来なかった。

そんな時も、彼女を壊してしまわないように細心の注意を払っていたためこんなにも彼女を身近に感じるなど初めてに等しい。



名前は、こんなにも小さかったのか。
体は、こんなにも柔らかく暖かい。



当たり前の事を今になって実感する。

彼女は女性で、自分とは全く違う存在なのだと。


私が少し力を強めただけで呆気なく壊れてしまう程、儚く尊い。

しかしその心根はどこまでも強かで暖かく、残酷だ。
いつも私を惑わせ、狂わせる。




『トキヤ…』




私の胸元に顔を押し当てる形で抱き締めているから、彼女の息遣いがダイレクトに伝わってきて、思わず全身が震えた。

そんな私に構うことなく、名前は胸元に顔を埋めたまま続ける。




『ねぇトキヤ…別に無理して“良い恋人”を演じなくてもいいんすよ』

「!!」

『私も恋人なんてリアルじゃ初めてだから、どう対応すべきか分かんなくてついつい素っ気なくしちゃうけど…これだけは分かって』




そこで句切ると、名前は胸元から顔を離して私を見上げた。

その頬が普段より赤く色付いて見えるのは私の願望が作り上げた偶像などでは無い。

彼女の綺麗な瞳が今この瞬間私だけを写し出していて、ジワリと胸が暖かくなる。




『私は、ね、トキヤ…リアルじゃあトキヤだけが好き…っんん!?』

「…ふ……」




我慢しきれず、あまりにも可愛いことばかり言う唇を己のソレで塞ぐ。
少し、勿体ない気もしましたが私も人の子。
理性が案外脆かったのです。



あぁ、私は彼女の何を見てきたのだろう。

こんなにも彼女は私を想ってくれているのに。
彼女の表面しか見ていなかったのは私の方だった。


そう、名前も現実での恋人関係は初めてなのだ(ゲームの中では数え切れない程あるそうです…複雑だ)




私達はお互い、初めて同士で足並みが揃わなかっただけなのですね。



ゆっくり唇を離すと、ずっと息を止めていたのか肩で息をする名前。

唾液で濡れている唇がいやに艶かしくて、そのギャップというものがまた私を虜にする。




「ありがとうございます、名前…これからは、遠慮しません」

『う、ん……うん?』




蕩けるような表情だった名前が、何を思ったのか微妙な表情でこちらを見てくるので私は少し意地の悪い笑みを浮かべてまた彼女を抱き寄せる。


大丈夫、私は貴方を決して傷付けません。

しかし、少しの意地悪は…許してくださいね?



耳に唇を寄せ、そう囁くと途端彼女は腰が砕けてしまったのか私に寄り掛かってきた。


確か彼女はいい声に弱いらしい。


以前、声を褒められた時に言われたからよく覚えている。



なんて可愛らしい。
なんと愛しいのだろう。


腕の中で真っ赤になる恋人に再度キスをする為、私は彼女の名を呼んだ。




甘く、溶けてしまう程甘美な声で。












何が書きたかった自分←

トキヤ初夢。

キャラ壊れすいまっせ!

鬱陶しいトキヤが書きたかっただけなんです(´・ω・`)

あのまま一人イベントにいったら名前が最低なヤツになってたので方向転換したらこうなった。

っていうかトキヤ気持ち悪!
実際いたら面倒そう←
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