愛しい者〜 短編集
□アブラクサス恋物語
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жжж 3年後 жжж
私は、11歳になりホグワーツへ入学した。
「スリザリン!」
当然のことながら、寮はスリザリンに決定した。
同じ一年生の仲間達も次々と寮が決定していく。
私は、スリザリン席で先輩方に手厚く歓迎されながら、次に来るスリザリン生を待っていた。
何人かのスリザリン一年生が席につき、そろそろ新入生も残りわずかになって来た頃、私は自分の耳を疑った。
「プリシラ・ストラフォード、前へ。」
懐かしいその名は、忘れたことがない彼女の名だった。
私は、瞬きも忘れ、彼女を見つめる。
3年経ち少し伸びた背、相変わらず可愛らしいウェーブのかかった金の髪、そして、白く輝く真珠の肌、
さくらんぼのように愛らしい唇。
ーーーーーーーーーーーーー何もかもが彼女だった。
そして、帽子は叫ぶ。
「スリザリン!!」
その瞬間、一度途切れた私達の縁(えにし)は再びつながったのだった。
私達は、ホグワーツで一緒に学び出した。
彼女は、引き取られた遠縁の家で随分とひどい扱いを受けていたようだ。
元来、我慢強い性格だったのか、あまりそのことを語ろうとはしない彼女だったが、私にだけは、時折話してくれた。
「私ね、ホグワーツにも行けない所だったの。でも、ディペット校長がおじ様達を説得して下さったの。」
「そっか・・・・でも、ホグワーツで会えて良かった。まさか、プリシラに会えるなんて思ってなかったからね。」
私がそう言うと、彼女は嬉しそうに笑った。
確かに、親戚の家での彼女の待遇の悪さは、話に聞くだけでなく、身の回りの物を見ても想像が出来た。
学年が上がるにつれ、女性なら誰しも華やかな小物や、可愛らしい文具などを持ちたがるものだが、彼女はそういった物から縁遠かった。
「いいのよ、アブ。私、気にしてない・・・・・。」
あれは、確か4年生のハロウィンパーティーの事。
私は、当然ながら、プリシラをパートナーとして誘ったのだ。けれど、彼女は、クラスメイトのケイティが私に執心だから断わると言い出したのだ。
「なぜ!?僕は、ケイティなんか好きじゃない。君とダンスを踊りたいから申し込むんだ。」
私は、少し気色ばんで言い寄る。
すると彼女は、少し俯いて小さな声で「だって、あなたとフロアでダンスなんて踊ったら私・・・・あまりにみすぼらしいわ。」
と、寂しそうな瞳を向けて来た。
それから、自分は気にしないから、ケイティと踊ってやってくれと言うのだ。
私は、自分の鈍感さに自分自身が嫌になった。
どうして、彼女のせつない乙女心に気付いてやれなかったのか。
思えば、彼女が身につけていたのは、昨年も一昨年もお世辞にも美しいドレスではなかったのだ。
2年とも、私はマダム・マルキンで新調したドレスローブだった。
プリシラは私と踊りながら、どんな気持ちだったのだろう・・・・・私は胸がつぶれる思いだった。
「わかった。とにかく、ケイティとは踊らない。僕のパートナーは君しかいないから。」
私は、それだけ言うと彼女の前を辞して、すぐに行動に移した。
ドレスを買ってあげるのは、簡単なことだ。
でも、プリシラはそんなことは望まない女性だったし、そんなことをしたら、彼女のプライドを傷つけることになるのは、わかっていた。
だから、私は、昨年、一昨年の自分のドレスローブをアレンジして、プリシラと2人分のお手製のパーティードレス
を作ることにしたのだった。
そして、その夜、こっそりプリシラを必要の部屋に呼び出し、この計画を告げた。
「アブ・・・・・あなたって人は・・・・・でも、あなた、お裁縫出来るの?」
プリシラはにこにこしながら訊ねて来る。
「君が出来るだろう?」
「私・・・・・・・・・・出来ない・・・・・・・・・よ・・・・・・。」
その瞬間、私達は、笑い転げた。
2人して心の底から笑いあったのだ。
2人とも涙を滲ませるくらいお腹をかかえて笑い、やっと笑いが収まった頃、
プリシラは真面目な顔を私に向けて来た。
「アブ・・・・・・・・・・・・・大好きよ。」
私は、彼女を抱き寄せ、頬に両手を当てる。
プリシラは、頬を赤く染めながら、もう一度囁くように呟いた。
「アブラクサス、愛してるわ。」
私は、彼女の唇を奪った。
それは、本気の口付けと言う意味では、私達のファーストキスだった。
優しく啄ばむように彼女の柔らかな唇を味わい、やがて、暖かな口内に舌を入れる。
彼女も必死に私の口付けに応えようと、舌を絡ませて来る。
お互いの唇が離れる時には、2人とも息が上がり、体中が熱く、そして、どうしようもなくお互いが愛おしく、必要な存在と感じていた。
その日は、2人とも寮に戻っても体の熱が冷めずに、眠れない夜を過ごしたのだった。
(続く・・・)