愛しい者〜来世に繋ぐ愛
□序章・・・あなたが父さま
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秋の到来を告げる風がウイルトシャーの丘を渡り、まだ夏のなごりを残した少し日焼けした肌を心地よくなでて行く。
フィオランティーヌは、白いドレスの裾を揺らしながら大好きな母に駆け寄った。
「母さま!!ホグワーツからの手紙が来たわ。ほら!」
「まぁまぁ、そんなに息を切らして、お父様がご覧になられたら、何とおっしゃるでしょう。おてんばが過ぎますよ。」
自分の周りをくるくると回りながらホグワーツ入学許可証をヒラヒラと見せびらかす我が娘にナルシッサはため息をついた。
マルフォイ家の血を色濃く受け継いだプラチナブロンドの豊かな髪、アイスグレーの涼やかな瞳、雪のように白く輝く肌、薔薇色の頬、そして秀麗な顔。
子供の頃から見てきたナルシッサでさえ、時折見惚けてしまう程美しいその容姿からはおよそ想像も付かぬ活発さで、始終この美しく穏やかな母親を困らせるフィオランティーヌであった。
「母さま!父さまは?まだお帰りでないの?最近は、わたくしとちっとも遊んでくれないのよ。いつもいつも難しいお顔ばかりされているの。
きっと、お仕事が大変なのね。つまらないわぁ〜」
頬をぷうっと膨らまして不満を表す我が子の姿に思わず笑んだナルシッサであったが、すぐに何か辛いことでも思い出したように邸の方向を見やると表情を曇らせた。
「さぁ、フィオランティーヌ。お邸に戻りますよ。お父様も直にお戻りになります。あなたに大切なお話があるのですって。」
「やった!!今日は父様とピアノが弾けるかしら?大切なお話ってホグワーツのこと?」
母の沈んだ声に気づける程、フィオランティーヌは大人ではなかった。
ナルシッサは努めていつも通りに聞こえるように
「そうね。あなたはお行儀が悪いからご注意を受けるのではなくて・・・」と言うのが精一杯であった。
邸に戻るとナルシッサが止めるのも聞かずに広い居間に飛び込むフィオランティーヌの目に見知らぬ男性の姿が飛び込んできた。
血の如く赤い瞳、端正な顔のすらりと背の高いその男性は、初めての来客であった。
「あ、あの・・・・」
「なんだね、フィオランティーヌ。お客様にご挨拶も出来ないのか。」
とまどい言葉を失う娘を叱るように父であるルシウス・マルフォイは言葉を発した。
「あ、初めまして。私、フィオランティーヌと申します。御機嫌よう。」
弾かれたように言葉を発しドレスの裾を少し持ち上げて男性の方を恥ずかしそうに見つめながらおじぎをする。
男性は、口の端を少し上げ笑みを作ると、フィオランティーヌの手を取り、口付けの挨拶をする。彼女は驚いたように目を見開いた。
「ルシウス。」
「はっ!我が君」
「美しいな。あれに瓜二つではないか。」
フィオランティーヌは父とその男性とのやり取りを不思議そうに見つめたまま、しかし、男性の赤く輝く瞳からなぜか目を反らせなくなっていた。