愛しい者〜来世に繋ぐ愛

□第1章 奪う愛 〜兄と妹〜
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「兄たま〜兄たま〜」


たどたどしい物言いで、自分の後をしつこく付いて来るまだ幼い妹にルシウス・マルフォイは相好を崩した。


「アフロディテ。わかったからもう走るんじゃない。転ぶ・・」


そう言いかけた側からアフロディテは草に足を取られて派手に転んだ。

ルシウス・マルフォイと妹であるアフロディテ・マルフォイはウイルトシャーの邸の裏庭の広大な森の中に居た。





季節は春。

そこらじゅうに白く可憐なシロツメクサの花が咲き零れ、アフロディテは兄にねだって花飾りを作ってもらっている所だった。


「あーん、痛い。痛いよ兄たま〜」


ルシウス7歳。アフロディテ3歳。

明るい陽射しがルシウスとアフロディテのプラチナブロンドの髪をキラキラと輝かせていた。






жжжж 〜4年後〜 жжжж


「ルシウス、お前も明日からホグワーツだ。このマルフォイ家の次期当主としてしっかりと学んで来なさい。」


マルフォイ家の現当主であるアブラクサスは11歳になる息子を呼び寄せこう言いながら肩を叩いた。

「父上、わかっています。それより・・」


「それより何だ?」


「アフロディテのことです。あいつは僕にベッタリだったから、明日からさぞかし寂しがるだろうと心配なのです。」

11歳の美少年に成長したルシウスは心底心配そうな声を出した。


「そうだな。今朝もお前と一緒にホグワーツに行くとだだをこね、ばあやを1時間も部屋から閉め出したぞ。全く、兄弟仲が良いのもいいが、お前たちは特別だな。思えば、あの子を我が邸に連れて来た5年前はまだお前の母がおったからな。私もだいぶ気を遣った。その分、アフロディテをお前任せにしてしまったことは悪かったと思っている。」



アフロディテとルシウスは所謂異母兄弟であった。

父であるアブラクサスが妾に産ませた子がアフロディテだった。

別邸を建ててやっていたし、2人の女性、2人の子供の間をアブラクサスが行き来すれば良かったはずが、5年前アフロディテの母が病で急逝してしまったのだ。

そういう訳で、アブラクサスは正妻を説き伏せこの邸にアフロディテを迎えたのだった。


「僕は可愛い妹が出来て嬉しかったですよ。」




жжж



ルシウスはアフロディテの部屋の前に立っていた。

明日の出立の準備もすべて終わり眠りにつくだけになっていたが、どうにも妹の様子が気になっていた。


ぐすん−ぐすっ、ふえぇ・・・・

小さな泣き声が扉から洩れ聞こえてくる。


「アフロディテ入るぞ。」


ルシウスは、スタンドの明かりしか灯っていない薄暗い部屋にそっと足を踏み入れる。

アフロディテはベッドの中で泣いているようだった。

天蓋付きのベッドの薄いカーテンからぼんやりと妹の姿が浮かび上がる。


「まだ起きていたのか?」


泣き顔を見られるのが嫌なのか、妹は顔を上げないまま、小さくうなづく。

豊かなプラチナブロンドの髪がふわりとシーツに広がる。


「兄さまと離れて暮らすなんて・・・想像出来ない・・・」


拗ねたように言うアフロディテは、バッと突然起き上がりルシウスに抱きついた。


「嫌嫌嫌!兄さま」


ルシウスはアフロディテの頭を優しく何度も撫でながら、囁くような声で話し出した。


「アフロディテ、今は寂しくても我慢しなさい。4年すればお前もホグワーツに入学出来る。
それに、クリスマス休暇や夏休みには帰って来るよ。どうしても寂しい時は、そうだな・・・・」




ルシウスは妹の華奢なあごを持ち上げるとそっと口付けした。

それは、触れるだけの優しい優しいキス。

そして、再びアフロディテの体を引き寄せ強く抱きしめこう囁くのだった。


「今のは兄さまとの約束のキスだよ。アフロディテは兄さまのモノだ。いつまでも一緒だから安心しなさい。」


「わかった。約束ね。」


アフロディテは笑顔で言うと安心したのか、すぐに眠りについた。



「全く・・・・・僕は何をしてるんだか。」

ルシウスはそう一人ごちたが妹の寝顔を見つめる瞳には真剣な光が宿っていた。





жжж



ルシウスはホグワーツに入学し、マルフォイ邸ではアフロディテの存在だけが唯一の光のような静かな時間が流れていた。

アブラクサスは仕事に忙しく家を開けることもしばしばあった。

アフロディテが赤ん坊の頃から世話をしている乳母のメルローだけが彼女の寂しさを埋めてくれる母親代わりでもあった。

兄のルシウスは季節毎の休暇には必ず帰宅した。

アフロディテは昼も夜もルシウスから離れず、そんな妹の様子にルシウスの方も嫌がる様子もなく、以前と変わらず仲睦まじい兄妹であった。



4年が経ち、ルスウスが4年生になる時に、アフロディテもホグワーツに入学することとなった。

それ以降は、休暇には2人仲良く自宅に戻って来、その都度立派に成長したルシウスにアブラクサスは満足気な笑みを浮かべ、会う度に美しくなるアフロディテには眉を下げっぱなしという状態になっていた。





そんな日常が少しずつ変わり始めたのが、ルシウスが6年生。アフロディテが2年生になった秋頃からだった。

ルシウスはOWLで全教科優を取り監督生が決まっており、何かと忙しくしている頃、マルフォイ家に頻繁に出入りする男性が現れた。


「おお!ルシウス、帰ったか。パーティーに間に合わんかと心配したぞ。」


アブラクサスは豪華に飾られた大広間の中央から人波を掻き分けて現れた。

高い天井からはクリスタルのシャンデリアが輝き、バカラのシャンパングラスに反射してキラキラとした輝きを放っている。

この日の為に特別に雇われた楽団が優雅な音楽を奏で、人々のさんざめく笑い声が旋律と重なっていく。


「兄さま、お帰りなさい。」


アフロディテが淡いピンクのシフォンドレスに身を包み、同じく薄ピンクのバラの花を髪に飾って大広間の階段から駆け下りて来た。

自然と兄ルシウスの腕に自分の腕を絡ませる。


「父上、ただいま戻りました。」そして、アフロディテの方に振り向き
「あぁ、ただいま。アフロディテ見違えたよ。綺麗だ。」と目を細めた。


そんな2人の様子を少し離れた所から静かに見つめる男性−−−


黒のタキシードにドレスローブ。ローブの裾には金糸の豪華な刺繍が施してあり、その類まれなる容姿と相まって誰もが振り返る存在となっていた。



ーーーしかし、誰もが知らなかった。



その人は今や魔法界の誰もがその存在を恐れるヴォルデモート卿自身であるとは・・・・

知っているのは、ホグワーツで同級であったアブラクサスと一部の純血貴族だけ。
もちろん、未成年のルシウスにも知らされておらず当然アフロディテは頻繁に訪ねて来る父の仕事上のお客様としか思っていなかったのである。


「ご機嫌様、ヴォール様。」


アフロディテは自分と兄に近づいて来たヴォルデモートに父から聞かされている偽名を呼び挨拶する。


「ヴォール様、いつも父がお世話になっております。それに、妹がよく贈り物を頂くそうで恐れ入ります。」


「兄さま、このドレスもヴォール様にプレゼントされたのよ!!すごく綺麗でしょう〜」


アフロディテは頬をピンク色に染めてくるりと一周して見せた。

まだまだ子供らしさが抜けないその仕草にルシウスがたしなめようとした時だった。


「マイレィディー、一曲お相手いただけますか?」


ヴォルデモートは膝を折り、アフロディテに手を差し出したのだ。

これには、周りからもひやかしの歓声が上がり、ますます頬を赤くしたアフロディテは黙りこんでしまったが、ヴォルデモートのリードでダンスの輪の真ん中に進み出るとワルツを踊りだした。


ほぉ・・・・・


あちらこちらから感嘆のため息が洩れている。

まだ12歳とはいえ、そこはマルフォイ家の令嬢。アフロディテのダンスは完璧であった。
まるで絵画の中から抜け出て来たように美しい二人の姿にしばし大広間の時が止まったかのような錯覚に落ち入る。


そして、曲が終わると時が戻って来た。


「素晴らしいわぁ・・・・さすがマルフォイ家のお嬢様。それにあちらの紳士は一体どなたなのかしら・・・・あまりお見かけしないけれど・・・」


大広間中のおしゃべり好きの魔女達が口々に騒ぎ始める。
そして、あっという間にアフロディテとヴォルデモートの周りには人だかりが出来ていた。


ルシウスは踵を返すと自室へと向かおうとする。
小さく舌打ちしたことさえ、自身で気づかないまま、足取りは乱暴なものとなっていた。



一方、噂好きの魔女達の餌食にされているヴォルデモートだったが、紳士の顔で悠然と人波をかわし、アブラクサスの所にやって来ると赤の瞳を輝かせながら、小さく呟く。


「全く鬱陶しい輩だ。純血でなければ、今すぐにでも杖を抜いていたがな。」


「我が君・・・・」


アブラクサスはヴォルデモートが本当にアバダ・ケタブラでも唱えそうでブルッと身震いした。


「だが、まぁ良い。アフロディテに会えたしな。」


ヴォルデモートは不敵な笑みを浮かべ姿くらましをした。



(fin)
 

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