愛しい者〜来世に繋ぐ愛 2
□第3章 新たな世界 〜the deathly hallows 〜
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噎せ返るような空気に男は眉間に皺を寄せると、軽く息を吐き出す。
今しがた、暗黒の谷の間近に姿現しをしたばかりの彼は、バチッという音を体のすぐ近くに聞き、身構えた。
「少し遅れたようだ・・・・。」
「ヤックスリーか。」
二人の男は、お互いに杖を胸の前に構え、互いを見定めてから言葉を交わす。
「ご不興を買わぬよう急ごう。」
慌てた様子で先を急ぐヤックスリーに、男、セブルス・スネイプは無表情で続いた。
二人がヴォルデモート卿の屋敷の執務室に入ると、すでに多くの死喰い人が揃っていた。
「遅いではないか・・・・・・・。」
長テーブルの先端部分に、いつも通り座っているヴォルデモートが、囁くように言う。
極端に灯りを絞った部屋は、薄暗かった。明るい月夜の今夜は、外の方が明るいくらいだ。
スネイプは、薄暗さに目が慣れ、そして、異様な光景に思わず視線が釘付けになる。
集まった死喰い人達の頭上に、ぐったりとした様子の女性が宙に浮いていた。
気絶しているのか、瞳は閉じられている。
魔法で吊り下げられているのだろう、くるくると体が回り、その様が、壁にかかる大きな鏡に映っていた。
「セブルス、客人が誰だかわかるか?」
スネイプの視線を感じたのか、ヴォルデモートが訊ねる。
「・・・・・・・。」
「ドラコ・・・おまえはどうだ?」
スネイプが無言のままだったからか、ヴォルデモートは、次にドラコに聞く。
ドラコは、闇の帝王に話しかけられただけで、完全に怯えた様子を見せた。
ちらちらと宙に浮かぶ女性を見上げながら、どう答えればいいのか、答えに窮している様子だ。
ドラコの隣に座っているルシウスが、心配そうな視線をわずかに息子に向けた。
ルシウスは、ほんの2.3日前に、アズカバンから釈放されたばかりだ。
ダンブルドアが死に、魔法省の大部分が闇の勢力に支配された今、彼をアズカバンに留めておく術はなかったのだ。
「ドラコが知っているわけはないな・・・・・・・・こちらは、チャリティ・バーベッジ教授だ。マグル学がご専門だ。」
ヴォルデモートの丁寧過ぎる口ぶりが、恐怖を助長するようだった。
「後でゆっくりと、我ら魔法族とマグルどもとの関係をご教授いただけるであろう・・・くっくっ、二人とも、早く座るのだ。」
ヴォルデモートは愉快そうにそう言うと、二人を促すように手を振った。
ドラコは、帝王の興味が自分から反れたことに安堵すると、ぶるっと一つ身震いをした。
スネイプは、そんな教え子の姿を目の端に映したが、ただ無言で席に着いた。
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