愛しい者〜来世に繋ぐ愛 2

□第3章 新たな世界 〜the deathly hallows 〜
1ページ/25ページ




噎せ返るような空気に男は眉間に皺を寄せると、軽く息を吐き出す。

今しがた、暗黒の谷の間近に姿現しをしたばかりの彼は、バチッという音を体のすぐ近くに聞き、身構えた。



「少し遅れたようだ・・・・。」



「ヤックスリーか。」



二人の男は、お互いに杖を胸の前に構え、互いを見定めてから言葉を交わす。



「ご不興を買わぬよう急ごう。」



慌てた様子で先を急ぐヤックスリーに、男、セブルス・スネイプは無表情で続いた。

二人がヴォルデモート卿の屋敷の執務室に入ると、すでに多くの死喰い人が揃っていた。



「遅いではないか・・・・・・・。」



長テーブルの先端部分に、いつも通り座っているヴォルデモートが、囁くように言う。

極端に灯りを絞った部屋は、薄暗かった。明るい月夜の今夜は、外の方が明るいくらいだ。

スネイプは、薄暗さに目が慣れ、そして、異様な光景に思わず視線が釘付けになる。

集まった死喰い人達の頭上に、ぐったりとした様子の女性が宙に浮いていた。

気絶しているのか、瞳は閉じられている。

魔法で吊り下げられているのだろう、くるくると体が回り、その様が、壁にかかる大きな鏡に映っていた。



「セブルス、客人が誰だかわかるか?」



スネイプの視線を感じたのか、ヴォルデモートが訊ねる。



「・・・・・・・。」



「ドラコ・・・おまえはどうだ?」



スネイプが無言のままだったからか、ヴォルデモートは、次にドラコに聞く。

ドラコは、闇の帝王に話しかけられただけで、完全に怯えた様子を見せた。

ちらちらと宙に浮かぶ女性を見上げながら、どう答えればいいのか、答えに窮している様子だ。

ドラコの隣に座っているルシウスが、心配そうな視線をわずかに息子に向けた。

ルシウスは、ほんの2.3日前に、アズカバンから釈放されたばかりだ。

ダンブルドアが死に、魔法省の大部分が闇の勢力に支配された今、彼をアズカバンに留めておく術はなかったのだ。



「ドラコが知っているわけはないな・・・・・・・・こちらは、チャリティ・バーベッジ教授だ。マグル学がご専門だ。」



ヴォルデモートの丁寧過ぎる口ぶりが、恐怖を助長するようだった。



「後でゆっくりと、我ら魔法族とマグルどもとの関係をご教授いただけるであろう・・・くっくっ、二人とも、早く座るのだ。」



ヴォルデモートは愉快そうにそう言うと、二人を促すように手を振った。

ドラコは、帝王の興味が自分から反れたことに安堵すると、ぶるっと一つ身震いをした。

スネイプは、そんな教え子の姿を目の端に映したが、ただ無言で席に着いた。




.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ