創作小説

□1/3 4話〜6話
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一人で戦うつもりだった俺は狛と怜夢の登場に唖然とする。
堺と男は丁度真ん中にいる。

これは追う側からすれば有利な位置。
追われる側からすれば最悪の位置だ。

堺は振り返り怜夢たちの方へと歩いていく。
俺は男のせいで助けにはいけない。

珞『姉ちゃん、狛、逃げろ!!』

怜夢『馬鹿言え!』

狛『警察が使えねぇってことはドンから聞いた!だったら、お前を守れんのはあたし等だけだろ!!』

ドンはどこまでも優しい男・・。
心からそう思った。

堺『全く。やってくれるよね。』

そう言って堺はコートを着た男に手を伸ばした。
男はポケットに手をいれ拳銃を取り出すと堺に渡す・・。

その時しかなかった。

俺は地面を蹴って二人に突っ込んだ。
目当ての拳銃を掴み前転をして怜夢たちの所に行く。
こうなれば有利な位置だ。

俺は狛と怜夢を背中に、ゆっくりと後退する。
拳銃はコートの男に向けていた。

堺は俺が捨てた拳銃を拾い俺に向ける。
そこまでの動きは一瞬だった。
俺が拳銃を奪った時点で堺は動き始めていたから。

俺のこめかみには既に血が流れていた。
さっきの動きのせいで昨日の傷が開いたからだ。
その血を拭うことも出来ずに俺は堺に向かって言った。

珞『おい、堺。お前が俺から拳銃を弾き飛ばした時・・俺は何て言おうとしたと思う?』

堺『馬鹿言え・・までは聞き取れたよ。その後は・・そんなはずは・・かな?』

珞『惜しいな。』

先ほどの堺の言葉に対しての嫌味をこめて言うと堺はリボリバー式の銃のグリップを開き弾倉を確認した。

珞『馬鹿言え。俺がさっき抜いたのに・・だよ。』

そう言って俺は引き金を引いた。
かなりの衝撃を覚悟してた。
初めて銃を撃つし、俺は練習を積んでもいない。
なのに・・銃はカチリとなっただけだった。

堺は何も知らないのか腕で顔を隠していた。
しかし、男は不敵に笑い俺に歩み寄ってくる。

先ほどとは反対のポケットから銃を取り出して・・。

逃げることもできなかった。
ただ背中の二人だけでも守ろうと両手を広げた。

『お前の銃が弾き飛ばされた時、俺も自分の銃の弾を抜いておいた。』

そう言って男は銃を堺に投げた。
そして俺の首に指をかける。

『人を殺すのに必ずしも銃が必要という訳ではない。
指一本でも人は簡単に死ぬ。』

珞『俺は・・お前の顔を見ただけだ・・。』

『それは警察が勝手につけた理由だ。』

珞『え?!』

『俺はただ殺したい奴を殺しているだけだ。理由は必要ない。』

この男にとって人を殺すということは俺たちが蚊を殺すのと変わらないんだ。
まだ針を刺す前でも、刺すつもりがなくても、俺たちは問答無用に潰す。
それと変わらない。俺の状況は今、蚊と同じなんだろう。

使い物にならなくなった拳銃を捨て、俺に伸ばされた男の腕を掴む。

珞『だったら・・後ろの二人は助けてくれないか?俺はどうなっても構わない。』

『・・後ろの二人を殺してお前を逃がしてもいい。』

俺の提案に提案を仕返した男は怜夢と狛を見た。

『お前を助けようとここまで来たんだ。喜んで死んでくれるだろう。』

怜夢『・・あたしだけにしろよ。この子と珞は逃がしてやってほしい。』

『二人だ。』

狛『なら・・あたしと珞を・・』

怜夢『馬鹿か、お前は!珞を助けに来たんだろ?!』

狛『だって!!』

珞『待て!!』

完全に男のペースになってしまっている現状を止めるため二人に怒鳴った。
男は焦りもせず小瓶を取り出し何かを飲んでいる。

珞『駄目だ。俺を殺していいから二人は逃がしてくれ。頼む。
姉ちゃんは子供が三人いるし、狛は恋人がいるんだ。
俺は・・子供も恋人もいない。だから、どうなっても構わない。
だから』

俺の言葉は遮られた。
男の唇によって、俺の唇が閉ざされたから。

男は舌で俺の唇を開き、何かを俺の口内に滑り込ませた。
その異物に驚き男を突き飛ばすと、男は俺を壁に打ち付け口と鼻を塞いだ。
何かが俺の口の中で溶け始める。
急な事で息も続かず、仕方なく飲み込むと男は満足そうに手を離した。

珞『何を飲ませた・・。』

口に残るものは何もなく、無味無臭のものを飲んでしまったようだ。
いきなりのことでカプセルなのか錠剤なのかも分からない。
ただ、粉でも液体でも無かった。

『時期に分かる。零、こいつを運べ。』

男が零と呼んだのは堺だった。
どうやら堺は偽名で零が本名らしい。

零『珞を連れて行くのか?』

堺改め零は俺に歩み寄りながら男に問う。
返事をしない男は入口に立つ怜夢と狛を見た。

『この女は俺がもらう。』

怜夢『駄目だ!』

『大人しく道を開ければお前らもお前らの家族にも手は出さない。』

狛『珞だって家族だ!』

『こいつはもう俺のものだ。』

怜夢『珞!!何とか言って・・珞!!』

男と言い争っていた怜夢は俺を見たが俺は口を開けなかった。
どの内蔵が痛むのか分からない。
ただ、体内が熱くて痛くて仕方がなかった。

零『毒を飲ませたのか?!』

零は男を見たが男はただ黙って怜夢たちが道を開けるのを待っている。

零『・・早く解毒剤を飲まさないと死んでしまう・・。
レイル、解毒剤は』

『屋敷だ。』

この会話から分かる通り、俺は此奴等について行かなくては死んでしまうという事になってしまった。
怜夢も狛も理解できたようでレイルと呼ばれた男を睨んでいる。

俺に駆け寄ることもできず、無力さを痛感した二人は拳を握って
答えを出そうとしていた。

零『二人とも早く道を開けて。このままじゃ珞もレイルも・・。』

毒を口移しで飲ませたレイルの体内にもまた毒が回り始めているようだ。
零が寝ぼけて言ったあの「レール」とはレイルのことだったんだろう。
幼馴染を語る零の顔が脳裏に浮かんだ。

零はレイルを死なせたくない。
そんな一分を争う状況で俺は「だったら口移しで飲ませなきゃいいのに・・」と思っていた。

怜夢と狛は道を開けた。
俺のために。

怜夢『死なせたら・・許さねぇ。』

握り締めたままの拳から滴る血を俺は眺めてた。
無力なのは俺も同じだ。
元々、オッサンの忠告を無視した俺の責任なのだから。

零に抱えられ運ばれていく中、途中でドンとすれ違った。
何も言わなかった。
俺を見ようともしなかった。

誰だか分からない男がドンのやった事を許して欲しいと頭をさげていた。
レイルは何も言わなかったが零が「面白くなったから良いよ」と答えていた。

車に乗せられ、俺の頭はレイルの膝の上にあった。
今にも閉じてしまいそうな目を必死に開き、レイルを見ていると
それに気づいたレイルの手によって目を覆われた。

レイルも口を抑えていたのを見ると苦しいのだろう。
運転席には零が乗っていた。
これから何処へ向かうのか。
そして本当に解毒剤を飲ませてもらえるのか、それを心配しながら目を閉じた。



レイルが立ち去った特別室にて。

龍『狛!!』

狛『龍・・今更来ても遅い!!』

龍『だって全速力で走っって行かれちゃ』

狛『お前が同時についていたら・・あたしとお前が死ねば良かったのに!!』

龍『うそん。』

龍が狛に八つ当たりされていた。




場所は変わり、そこはレイルの住む屋敷の一室。
豪華な装飾が施されたベッドに珞が横になっている。
その隣で零とレイルは椅子に腰掛け話し込んでいる。

零『レイルまで毒を飲むことなかったんじゃない?』

レイル『ある程度の毒には耐性がある。こんなもので死んだりはしない。』

零『ちょっと痛そうだったけど?』

レイル『これは新種の毒だからな。』

零『なんで珞を連れてきたの?殺すことだってできたのに・・。』

レイル『気にいったからだ。』

零『気に入ったって・・今後どうするつもり?』

レイル『さぁな。』


意識が戻って目を覚まそうとした時に聞こえてきた会話。
どうやら死はまぬがれたようだ。
ベッドで寝かされているようだが、体を起こす訳にもいかず
このまま何か聞けはしないかと耳を澄ませていると
ベッドが少しだけ揺れた。

レイル『盗み聞きか。』

まさかと目を開ければレイルの顔があった。
俺を見下ろしている。

珞『・・何が気に入っただ。俺はお前の玩具になるつもりはねぇ。』

レイル『それでいい。』

俺の足元に移動し腰掛けたレイルは煙草に火をつけた。
その側には零がいる。

零『水・・飲める?』

珞『・・あぁ・・っあ?!』

起き上がろうと体に力をいれると全身に激痛が走った。
まるで雷にでも打たれたような痛み。
俺の悲鳴にも近い声を聞いてレイルは喜んでいるように見えた。

レイル『まだ起き上がるのは無理だ。解毒剤を飲んで三十分程じゃな。』

珞『いつになったら痛みが引くんだ。』

レイル『・・そのうちだろ。』

零『点滴を打ったほうがいいね。持ってくるよ。』

レイル『必要ない。』

零『でも脱水しょう』

レイルは零の言葉を遮ってコップを奪い取ると自分の口に含ませた。
嫌な予感しかしなかった俺は痛む体を無理矢理起こし逃げようとした。
しかし。
直ぐに腕をとられ水分を口内に流しこまれた。
乾いていた喉は俺の意思に反して水を受け入れていく。
ゆっくりと離された唇は緩んでいた。

レイル『まだ飲むか?』

体内の熱が引いていく。
少しだけ痛みも引いた・・気分だ。
俺はレイルからコップを取り上げ、残った水をレイルにかけた。

零『珞!!』

珞『うるせぇ!退け!!』

零に八つ当たりをし水をかぶって俯いたレイルを突き飛ばす。
と言っても体に力が入っていないせいで殆ど触れただけだったが。

ベッドから滑り落ち、痛む体に鞭をうつように立ち上がった。
絨毯を踏む度に落雷にあっているような状態で何とかドアまでたどり着く。

この男たちに力では敵わない。
言葉も・・あしらわれてるだけだ。
だったらせめて、此奴等に膝をつかないように生きてくだけだ。
どうせ玩具は飽きれば捨てられる。
その時を待つんだ。

ドアノブを捻り廊下へと出る。
廊下にも絨毯が敷かれていて、少し安堵した。
絨毯でこの痛みだ。フローリングなら倍はクる。

壁伝いに歩き、様々な戸を開けていく。
途中何人かのメイドとすれ違ったが誰も俺をみようとしない。
その姿が最後に見たドンを思い出させる。

それを振り払うように歩き、やっと目的の場所についた。




零『・・レイル。珞は君が見てきたような女じゃないよ。』

レイル『だが、俺が求めてきた女ではある。』

零『珞はか弱い女の子だ。』

レイル『そうでも無いさ。』

珞『今度は何話してんだよ。』

零『珞?!』

珞『へ?』

零は俺の登場に驚いたように振り返った。
零の反応に何か間違っていたかと過去を思い返すが今のところ俺の居場所はここしかない。
確かにそのまま逃げることもできたし、他の部屋に隠れることもできたが・・どうせ逃げても捕まるか殺されるかだけ。
なら今は大人しくしているべきだし・・何より俺が部屋をでたのは・・
トイレに行くためだ。

レイル『言えば運んでやった。』

珞『ふざけんな!出るもんも出ねぇよ!!』

俺がトイレに行ったと分かっていたのはレイルだけだったようで
レイルと俺の会話でトイレに行っていたと分かった零は笑い出した。

零『珞・・君はどうなりたいの?』

零の言葉に唖然とした。
零は最初見た時の笑顔だったが、その口から出た言葉は俺には理解できなかった。

・・選択肢があるっていうのか?この状態で?
俺を騙して殺そうとした男と、常に品定めするような目で俺を見ている男に囲まれて・・。
選択肢なんか無い。あるとすれば生きるか死ぬかだ。

誰も喋らない中でレイルは立ち上がった。

零『出かけるの?』

レイル『あぁ。まだ仕事がある。』

零『じゃぁ俺も』

レイル『お前は残って女の面倒をみろ。
部屋はここを使わせていい。それと・・「裏社会」という大まかな情報しか持っていないようだから説明しておけ。これから自分が生きる世界についてを・・。』

レイルはドアの前に立つ俺の顎を持ち上げ嫌味を込めて言い捨てると部屋を出て行ってしまった。
色々と言いたいことも聞きたいこともあったがレイルは足早に去っていき
部屋には俺と零だけが残された。

レイルは簡単に言うが俺と零は何時間か前までは同じ部屋の中にいて・・同じ境遇の人間だった。
俺は気まずい雰囲気を打破するために口を開いた。
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