創作小説

□1/3 7話〜9話
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俺はトイレを飛び出しレイルの部屋へ向かった。
こうして見ればどの部屋のドアにも違いはなく、二日目の俺にレイルの部屋を直ぐに当てるのは困難だった。
・・見取り図がなければ。

昨日ある程度の部屋を頭に叩き込んだお陰でレイルの部屋は直ぐに分かりドアを開けると
ベッドに横になっているレイルがいた。

ドアの開く音に目を覚ましたレイルがこちらを向く。
意外と足の速い綾子はそこまで迫っていた為、躊躇する暇は無かった。
企みに気づいたのか嫌な予感がしたのか俺を捕まえようと伸ばされた綾子の手を避け、舌を出し挑発してからベッドに飛び乗った。

状況を理解していないレイルは上半身だけを起こし様子を伺っている。
まさか俺がトイレの洗剤を被ってるとは思っていないだろう。
俺はそのままレイルを抱きしめた。

綾子『あ、あんた・・』

口を手で覆い驚愕している綾子を尻目に心の中で「南無三」と呟いてから
トイレの洗剤を口に含んだ。

レイル『何事だ。』

顔の横でそんな事が行われているとは知らないレイルは俺の後ろ髪を引き
自分の顔に近づけた。
さすがに匂いでバレる可能性がある。
抵抗を感じたが、もう後には引けないと近くにあるレイルの頬を抑えキスをした。

レイル『・・?!・・ゲホッ!!』

むせ始めたレイルに突き飛ばされた俺はベッドの下に落ち、つられるようにむせた。

珞『うぇ・・う、うがい・・。』

レイル『貴様・・何を・・』

まだ苦しそうな声を出しているレイルに振り返る事なく綾子の前に立つ。

綾子『あ、アンタ何てことを・・。』

珞『ど、退け・・マジでヤバ・・喉・・』

乾いていく喉に熱さを感じながら綾子の横を通り三階で水のある場所を思い出していた。
・・・・・三つある。

トイレ、老婆の部屋、零の部屋だ。

一番近いのは・・

珞『中から行きゃ良かった・・。』

レイルの部屋と繋がっている零の部屋。

零の部屋のドアを開けると既に中にはレイルがいて零がうがいをさせていた。

零『珞・・一体何飲ませたの?』

零の言葉を無視しレイルからコップをとりあげ口に水を含ませる。

零『レイル収まった?』

レイル『あぁ、平気だ。』

既に復活しているレイルに驚きながらも喉の痒さと痛みに地団駄を踏む。

珞『お前なんで平気なんだよ・・』

レイル『・・何かを盛られるのには慣れているんだ。』

珞『トイレの洗剤もか?』

レイル『?!』

俺の口から出た言葉に余程驚いたのかレイルはフルスイングで俺の頭を叩いた。

珞『イッ?!』

零『・・君の根性には感心するよ。』

レイル『・・屈辱だ。』

珞『ざまぁ・・』

先日からのレイルたちへの恨みも少し晴れドアの外に目を向けると
外から綾子が様子を伺っていた。

俺が綾子に洗剤をかけられ腹いせにやったと言われるのが怖いのか中には入ってこない。
別にそんな事を言うつもりはない俺は綾子から視線を外し零の背中を叩く。 

零『ん?』

珞『風呂に入りたいんだ。』

零『あぁ、一階にあるよ。』

珞『知ってる。借りていいか?』

零『気にせず入れば良いのに。』

珞『人の家の風呂勝手に使うほど非常識じゃねぇよ。』

レイル『良く言う。』

レイルの言葉を無視し風呂場へ向かった。

レイル『・・あいつ、何で一階に風呂がある事を知ってるんだ。』

零『昨日色々探ってたみたいだよ?』

レイル『・・』

零『それよりも綾子ちゃん放っておいて良いの?
珞みたいな子嫌いでしょ、あの子。』

レイル『あの女は父親に似て頭が悪いからな、放っておけば何れ自爆する。』

綾子『・・・』





珞『あー・・気持ちいい・・』

陽の光の当たる露天風呂に入り太陽を見上げる。
周りは木々に囲まれているのか人の声や自動車の音はせず
鳥のさえずりや、水の流れる自然の音しかしない。

ここに来て一日目からとんでもない目にあった。
いや、ここに来る前から悲惨だったんだ。
まだ帰りたいという気持ちが心の何処かにあるが
ここで生きていく覚悟ができてきたのも確かだった。

レイル『気持ちよさそうだな。』

珞『そう思うなら邪魔すんな・・・って、おい!!』

閉じていた目を開けると服を着たままのレイルが立っていた。
タオルを巻いて入ったことは正解だったようだ。
しかし、何を考えているのかレイルは服のまま風呂の中に入ってきた。

考えられない行動に立ち上がろうとすると肩を抑えて止められた。

レイル『お前麗子を知ってるんじゃないか。』

珞『れ、麗子?お前の姉ちゃんか?』

似たような名前に姉弟か聞くがレイルは頷かない。
俺の目をジッと見つめているだけだ。

珞『おい、知らねぇって!!逆上せる!!』

レイル『じゃぁ何故、こんなものを持ってるんだ。』

珞『は・・あぁ!!テメェ人の服のポケット漁りやがったな!!』

レイル『もう一度聞く。麗子を知ってるのか?』

珞『・・え?』

良く考えたら俺は老婆の名前を知らない。
もし、麗子というのがあの老婆なら・・・。
間違いない、彼女は愛されていたんだろう。
レイルという悪魔に。

珞『・・好きだったのか?』

レイル『何故そう思う。』

珞『・・泣きそうだから。』

レイル『・・・』

見たこともないレイルの人間らしい表情に俺は体が熱くなってくるのを感じた・・・・・・・熱く・・・熱く?

珞『退けぇ!!』

レイル『?!』

自分が風呂に浸かっていることを思い出した俺はレイルを突き飛ばし浴槽から飛び出した。

珞『うー・・逆上せた・・』

レイル『・・元気なのか?』

珞『見りゃ分かんだろ。超だりぃー・・。』

レイル『答えろ、彼女は』

珞『上がる。』

レイル『おい、俺の』

レイルの言葉を聞き流し、俺は脱衣所へ向かう。
しかし・・・。

珞『服がねぇ!!!!!!!!』

両手で頭を抱え膝をついた俺は隣で服ごと濡れているレイルを見た。
タオル一枚の俺と少なくとも服を着ているレイル。

元はと言えば服もないのに何も考えず風呂に入った俺の責任だが・・・。

珞『何か取ってきてくれ。』

レイル『俺の質問に答えてからだ。』

珞『取ってきたら話してやるよ。』

レイル『・・』

無言ではあったが承諾したのかレイルは出て行った。
残された俺は湯冷めしないように違う浴槽に入り体を温める。




『今・・なんて』

綾子『だから、今までの事を他言しないならここから出してやるって言ってるのよ。』

『どうして・・・。』

綾子『ここから出たいでしょう?レイル様たちに会いたいんでしょう?』

『あ、会えるのかい?!』

綾子『あなたの孫・・アタシが好きなんですって。この前告白されたのよね。』

『え?』

綾子『・・孫の幸せはアタシと結婚することだそうよ。孫の幸せを祈るならアタシに協力しなさい。
朽ちていくだけの枯葉のようなあなたに生きる希望を与えてあげるから。』





レイル『珞に着せられる服はあるか?』

零『え?・・メイドに確認してみないと・・。』

レイル『・・あいつに必要なものを全て揃えさせろ。』

キッチンに降りてきていた零に聞いたレイルは、何も揃えていなかった事を思い出し
零に準備を頼み自分は珞に着せられるものを探す為に三階へ向かう。

零『レイル・・・』

先ほどの零の部屋での三人の姿を思い出す。
ただの友人のように話す姿。
コロコロと変わるレイルの表情。
零は自分の望む何かがそこにあった気がした。


珞の着られるものを探しているはずのレイルは自分の衣装部屋へ来ていた。
とにかく着られればいいと思っていたのも確かだが
何故他のメイドの服じゃいけないのか・・レイルはそれを疑問に感じていなかった。

レイル『・・羽織れれば何でもいいだろ。』

適当に一枚の羽織を取り下へ向かおうと階段の手すりに手をかけた時だった。

『レイル様。』

聞き覚えのある懐かしい声。

過去の記憶が鮮明に蘇ってくる。

レイルという男が誰よりも大事にしなくてはならない女性。

レイル『麗子・・』

麗子『お久しぶりです。側にいながら顔をお見せできずに申し訳ございませんでした。』

レイル『・・ずっと屋敷内に・・あの部屋にいたのか?』

麗子『えぇ。綾子さんにお世話になって』

麗子の言葉を遮るようにレイルは麗子を抱きしめた。
老いぼれて尚、美しさをもつ麗子はレイルの腕の中で女となっていた。
昔、旦那に抱きしめられていた頃を思い出す。
ただただ愛された。そんな頃を。

レイル『元気ならば構わない。一応零に診察させよう。』

麗子を抱きしめるレイルの腕に迷いはなかった。
ただ強く麗子を抱きしめ、涙を流す麗子の頭を撫でた。




零『麗子さん?!』

リビングにいた零の前にはレイルの羽織をかけている麗子の姿があった。
五年の間に少し変わってしまっていたが美しさを残している麗子は零に微笑みかける。

零『心配したよ。』

レイル同様に麗子を抱きしめた零は麗子の背後に立つレイルを見上げた。

零『良かったね、レイル。』

レイル『あぁ。』

既に無表情となっていたレイルに笑いかけた零は麗子を診察する。

零『特に問題はないよ。』

レイル『そうか。麗子、新しい部屋を用意させよう。』

麗子『ありがとう、レイル様。』

和んでいる空気の中でレイルは何かを忘れている気がした。



珞『あいつ・・殺す。』

ぬるめに設定された浴槽でさえ逆上せていた俺は脱衣所に座り込んでいた。
誰も来そうにない脱衣所の扉を見つめ、巻かれたタオルを見る。

珞『裸な訳じゃねぇし・・いっか。』

タオル一枚で服を探しに行く覚悟を決めた俺は立ち上がりドアを開ける。
しかし。

ドアを開けようとドアを引くと思いがけない力が加わりドアは思い切り顔にぶつかる。

珞『ダァ!!!』

受けた衝撃に頭がクラクラしながら前を向く。

珞『・・今日は厄日かよ。』

『あれぇ〜?見つかっちゃった〜?』

珞『また濃い奴がきたな。』

目の前に立つのはふんわりとした雰囲気の女だった。
見たことはないが・・二日目だし知らない女がいても不審には思わない。
だが・・。

珞『見つかったって事は侵入者か。 』

『てへ。・・逃っげろ〜!!』

楽しそうに前を走っていく女を追いかける必要性があったのか分からない。
だけど・・追われれば逃げ、逃げられれば追う。
これは人間の本能だと思う。

屋敷内を知り尽くしているのか女は器用に逃げ回り中々捕まらない。
リビングのドアを開け中に入っていった女は俺がドアにたどり着く前に出てきた。

珞『ばっ、止まれね』

俺の方向へわざわざ走ってきた女は俺とぶつかり互いに尻をつく。

『やだ、いったぁ〜い!!』

珞『俺の台詞だ、馬鹿女!!』

零『え?その声、珞?!』

珞『あ。』

リビングから出てきた零で女が引き返した理由を理解した俺は転んで泣きそうな女の手を掴み立ち上がると来た道を戻るように走った。

零『え?!何で?!』

レイル『どうした。今のはリックの所の奴だろ。』

零『・・タオルのみの珞と逃げて行っちゃった。』

レイル『珞・・しまった。・・追え、二人とも捕まえるんだ。』

零『了解。』
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