創作小説

□1/3 7話〜9話
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リック『何も分かっていなんだね。表の世界のお姫様。』

珞『テメェ・・この縄を解け!出てく!!』

リック『敵だと分かって帰す馬鹿が何処にいるのさ。』

リックは俺の顎を掴み向き合わさせるようにするが
俺は思い切り頭突きを食らわせる。

「お姫様」なんて言われて屈辱を感じたのは初めてだった。

リック『イッタァ・・』

頭を抱えて蹲るリックに駆け寄ったのは会ってから一言も喋っていない男だった。
軽トラを運転していたし仲間なんだろうけどケイゴよりも早く駆け寄ったことに俺は少し驚いていた。
成り行きを見守るように呆然としているとケイゴが俺を締め付けている縄を急いで解き始めた。

珞『・・何やってんだ、お前。』

急な事にケイゴを見下ろしているとカチンという音が響いた。
音の方へとゆっくり視線を向けていくと銃口が俺に向けられている。

珞『わぉ。』

ケイゴ『・・解けねぇ・・癖でキツく結びすぎた。』

既に銃口を向けられている中でケイゴはキツくくくられた縄を解こうと必死になっている。

珞『ケイゴ、助けてくれるにしてもこの状況じゃぁな。』

ケイゴ『お前は何でそんなに冷静なんだ!!』

珞『何で俺は敵なんだ?』

ケイゴ 『はぁ?!』

椅子にくくられた状態で銃口を向けられて・・そんな中で俺が気になったのはそこだった。
あの屋敷に踏み込んだら敵なのか・・。
お姫様だから敵なのか・・。

俺が此奴等に敵と認められる意味が分からない。
そんな俺の質問に答えたのはリックだった。

リック『レイルが君を殺さないからだ。今はどうでも君は必ず敵になる。
この先元の居場所に戻れたとしても君は命を狙われるよ。
この・・危機的状況を免れたならね。』

珞『ようするに俺に観念しろってことかよ。』

リック『寧ろ何で観念しないのか不思議に思うよ。』

銃口を向けたまま話しているリックに少しの余裕を感じ、頑張り続けているケイゴに
老婆に貰ったジッポを渡す。
手は前にある為ジッポを出すのに苦労はなかったが渡すときにバレないかが心配だった。

ケイゴ『これで貸し借りは無しだ!』

ケイゴが言い終えると同時に解けたロープにリックも気づき銃を構え直し引き金を引いた・・。

珞『遅いんだよ、バァカ!』

椅子をバネにリックに向かって飛び、放たれた弾丸で手錠の鎖を砕いた。
リックの肩に両手をつき一回転するとリックの後ろに着地し、ドアを出る。

珞『道が分からねぇ・・』

とりあえず左に行き、その先を適当に曲がっていく。
時折俺の横を弾がかすめるが立ち止まって後方確認なんてできる訳もなく
がむしゃらに走っていくとケイゴが舞衣夢を抱えたまま俺に並んできた。

ケイゴ『その先を左に行って右だ!』

珞『お前立場大丈夫なのかよ?!』

ケイゴ『俺はリックの仲間じゃねぇ!』

舞衣夢『舞衣夢も違うよ〜。』

珞『うっそ・・』

走り続けながら話していると二人は驚きの言葉を放って急停止した。
つられて立ち止まろうとするとケイゴの肩から降りた舞衣夢が振り返る。

舞衣夢『私たちは取締役員チームの一員。コードネームはMとK。
また会えたらよろしくね。』

ニッコリと笑った舞衣夢改めMはガーターに備え付けられた小型の銃を取り出すと
リックたちに向き直り一言も喋ってない男に向け発砲した。
ある程度の距離があるにも関わらず一発で額を貫きケイゴを横目で見ている。
リックは任せたという合図だったのかも知れない。

警戒したリックが身を潜めると次はケイゴ改めKがハチマキを取り
服を脱ぎ背中のジッパーをおろしマッチョだった体を脱いでいく。

現れたのは少し筋肉質の男だった。
ケイゴの時と違うのは5歳は幼くリックより少し上程度の青年だったところ。
Mはウィッグを外しワンピースを脱ぎ捨てる。
スラリとした美人になったMはどういう仕組みか身長も高くなり
二人とも先ほどまでとは全く異なる人物となった。

K『リック、ガキの割には頑張ったがここまでだ。
規約違反によって罰する。神妙にしな。』

リック『お前ら情報チームの人間じゃなかったのか!!』

K『この世界で外部の人間を雇うときはもっと慎重にしねぇとな。』

煙草をくわえ火をつけたKはポケットからとんでもないものを取り出した。

珞『し、手榴弾?!』

仕方ないのかも知れない。
俺はリックが何をしたのかも知らないし、どんな世界に属するのかも知らない。
規約違反も何のことだか・・。

だけど・・あんなに幼い少年が規約違反で殺されるのは・・正しいとは思えない。

Kが迷いなく投げた手榴弾に追いつけるはずはなかった。
もし追いつけたとしてもキャッチすれば死んでしまう。
だけど、このままで良いと思えなかったんだから仕方ない。

K『?!お』

Kの横を走っていった俺にKは気づいたが
Kの伸ばした手を交わし隠れているリックを見つけた。

リック『?!なんで』

珞『黙って、かがんでろ!!』

俺はリックに覆いかぶさり目を閉じた。
もう手榴弾が地面につくころ・・
俺もここまでだと諦めた。
だけど、幼い命を見殺しにしなかったんだからと後悔はしなかった。



珞がKを超えた頃、更にKを超えていく影があった。
その影にKは声を失い何かを確信した。



リック『ヒック・・ウゥ・・』

建物はどれだけ崩壊したんだろうか。
リックの泣き声。俺を包むぬくもり。

レイル『無茶をするな。』

俺はレイルの胸にしがみついた。

怖かった。それだけじゃない。
色んな感情が巡って整理できなかった。

俺の頭に軽く触れたレイルは零の声に振り返る。

零『皆無事?』

レイル『あぁ。』

零の声に顔をあげると零は一枚のシートを両手で広げていた。
さわやかに笑っている零だったが頭からは出血している。

珞『おい、血が』

俺が全てを言い終える前にガツンと凄い音を立てガレキが零の頭に落ちてきた。

零『イッ?!』

珞『おい!!』

慌てて駆け寄ろうとしたがレイルが俺の腕を引き制する。
振り返り怒鳴ろうとしたがレイルは俺を引き寄せ震える体で俺を抱きしめた。

珞『・・ごめん・・。』

何で謝ってしまったんだろうか。
分からなかったけど、レイルのその震える体を支えるように抱きしめた。
そして・・零に片方の腕を伸ばした。

俺たちを見守っていた零を抱きしめれば零もまた震えていた。

零『帰ろう、珞。』

珞『・・』

帰る・・それは・・。

珞『あぁ。』

俺は二人から離れ蹲ったままのリックに顔をあげさせた。
そして。

珞『俺は観念するよ。』

泣きじゃくっている幼い少年に微笑んだ。
俺に飛びついてきたリックを抱きしめ返そうとするとレイルが首根っこを掴んで零に渡す。

呆れながら足場の悪い道を進んでいくとMとKがいた。

二人の手には零と同じシートが握られている。

K『そいつをこっちに渡す気はあるか?』

Kはレイルに向いていたがレイルは俺を見下ろしている。
俺が首を振るとレイルはKに向き直り「引き取る」と言った。

その後「貸しだ」と言ったレイルに零と二人で笑った。





零『まだこめかみの傷も完治してないのに、どんどん傷が増えていくね。』

珞『ガキの頃からそうだったんだよな。』

零『想像つくよ。』

気づかなかったが俺は所々に擦り傷があって、零はそれを治療してくれていた。

リックは既に眠ってしまっていて零のベッドを占領している。

零『今の傷がある間だけでも大人しくしてなよ?』

珞『はいはい。』

零の言葉に適当に返事をすると零が片付けている間にリックの所に移動する。

珞『こんなに小さいのに・・。』

零『それでも小学生と中学生の間くらいじゃない?』

珞『充分幼いだろ。』

零『レイルも俺も物心ついた時には人を殺す術を覚えてた。
この世界にいれば彼は充分大人だよ。子供だと思ってると隙を突かれるよ。』

クスクスと笑っている零は目薬を取ると点眼し、俺にもするようにと投げ渡した。
キャッチし損ねた俺は落ちた目薬を拾い零に向く。

珞『俺の目の前で一人の男が殺されたんだ。Mが撃った弾があいつの額に・・。』

零『珞・・』

珞『でも・・何も感じなかった。冷静じゃなかったっていうのもあるけど・・
それでも俺は今、こうして冷静になってもあの男を助けなかった事を悔やんでいないんだ。
こんな気持ちが普通になる。そんなの・・』

俺は目薬を握り締め俯いていた。
零は俺にゆっくりと歩み寄って来て側に座ると俺の顔を覗き込んできた。
俺の視界に零が映った瞬間、俺は顔をそらしたが零は俺の頭に手を置くと
なだめるように言った。

零『もし珞がそうなっていって嫌だと思ったときは俺を責めていいよ。
あいつのせいでこんな風になったんだって。』

珞『そんな!』

零『だって嘘じゃないだろ?俺やレイルが珞をここにつれてきたんだ。』

珞『・・』

零『それでも一緒にいたいって思ったんだ。だからもう出ていこうとしないで。』

珞『零・・。』

リックが寝ているベッドの下方で俺と零は向き合っていたが
先に零が立ち上がり片付けを再開する。

俺はベッドに背を預け点眼するとタイミング良く入ってきたレイルに投げ渡す。
急にも関わらずキャッチしたレイルは目薬と確認すると零に投げ渡す。

零『わ・・レイルもしておいた方がいいよ。』

投げられた目薬を何とかキャッチし、零はレイルに駆け寄る。

レイル『火は見てない。』

零『いいから!』

レイル『しつこいぞ。』

零『自分だって!』

珞『・・・何やってんだ、お前ら。』

目薬のキャップを外しレイルの顔を掴もうとする零と
零の腕をかわそうとするレイル。

滑稽な二人にツッコミをいれるとレイルは我に返ったように大人しくなったが
零は待ってましたと言わんばかりにレイルに飛びつく。

珞『何だよ、目薬怖いのか?』

零『珞の前だから照れてるんだよ。』

珞『難儀なやつ。』

レイル『黙れ。』

飛びついた零を払い落とすとレイルはリックを覗き込んだ。

レイル『外傷はないのか?』

零『無傷だったよ。』

レイルに払い落とされた零はふくれっ面で答えたが片付けを再開すると思い出したように言った。

零『あ、アイツ等だけど何か分かった?』

零の言うアイツ等とはMとKのこと。
一応取締役員チームと名乗っていたことは言っておいたが念のためにとレイルは調べていた。

レイル『珞の言うとおりだった。中堅だな。』

零『そんな奴らに睨まれるって・・リックは何をしたの?』

レイル『親探しだ。』

珞『え?』

零『なるほどね。』

零はレイルの言葉に納得し煙草を取り出すと火を点けた。
そんな中、俺は納得できずに澄ました顔の二人にキツく言う。

珞『何で親を探しちゃいけないんだよ。』

零『俺の説明不足かな。』

珞『ん?』

零は俺の言葉に呆れていたが俺の隣に腰掛けるとゆっくりと話していった。

零『俺たちは親を継いでこの世界に入ったんじゃない。色んな施設から国が選んでこの世界につれてくる。物心ついてからの子もいるし、俺やレイルみたいに生まれて数ヶ月で来る子もいる。リックも確か同じはずだよ。
親に捨てられた子供が殆どだ。
・・俺たちは裏社会に選ばれた。それなのに親なんかを探されて表の世界に帰りたいなんて言われたら国は困るわけ。この世界の情報を多く握る子が表の世界に生きて口を滑らせたら裏社会は成立しなくなる。そうなってしまわないように、国は親を探し始めた子を殺すんだ。規約違反としてね。』

重い口調の零の言葉をしっかりと聞いて納得した俺は静かに眠るリックに視線をうつした。

珞『リックはきっと殺されるのを理解した上で親を探していたんじゃねぇか?
…うまく言えねぇけどそんな気がする。』

レイル『・・』

俺の言葉にレイルはため息をつくと出て行ってしまった。
隣にいる零を見れば困ったように笑い、もう寝るといいと言ってきた。

大人しく廊下に出た俺は部屋を振り返りため息をつく。
これがこの世界の秩序なら外から来た俺に乱す権利はない。
かと言って困っている人間を放っておけるわけもない。

珞『よし、決めた。』

俺は零の隣の部屋の扉を開けながら叫んだ。

珞『元々「世間体」だとか「常識」だとかに従って来たわけじゃねぇんだ!
こうなりゃやってやるよ。逃げるなん』

そこまで言って項垂れた。
ベッドには既にレイルが横になっている。
そうだ、こいつと同じ部屋だった。
こちらを冷めた目で見ているレイルに記憶を回想しかけたが頭を振って立ち上がり
扉を思い切り閉めた。
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