創作小説

□1/3 13話〜15話
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珞『何処行った、あの野郎。』

満腹も収まり元気が出てきた俺は若い執事の捜索を続けていた。

珞『二階にあがったのかな?』

階段を覗き上の階を見るがレイルが一階にいる為か殆どの人間が一階に降りてきているようで二階に人の気配はない。
もう一度一階を探して二階見ようかと迷っていると近くの部屋から声がする。
聞き覚えのある二つの声・・これは。

珞『綾子と零?』

一緒にいるのかと室内を覗こうとした時、階段の上から物音がした。
音に振り返れば若い執事がこちらを覗くように見ている。
その姿に俺は身を翻し階段を駆け上がっていく。
零と綾子よりもあいつの正体の方が気になる。

執事『あ。』

再度逃げ始めた執事を俺は等々追い込んだ。
執事の後ろには窓。右には壁。左には扉。前方には俺がいる。

珞『どうする?』

執事『・・』

執事は俺の言葉に答えず俺と天井の間を見ている。

珞『まさか』

飛ぶ気かと言い終える前に執事は地面を蹴った。
だけど。
上を飛ぶと分かっていたし俺は後退し再度男の前に立つ。

執事『あれ?』

珞『馬鹿。』

執事『お前の真似したんだけど上手くいかねぇな。』 

珞『え・・リック!』

顔は違うが執事の正体が分かった俺は階段に向かい走るが執事は背後から俺の腕を掴み
俺を捕まえると左側にあった扉を開けて中に入った。

中は空室の為ガランとしていて俺は執事ともみ合いになる。

K『おい、落ち着け。俺の狙いはリックじゃねぇ!!』

珞『じゃぁ何だよ!』

K『デカイ声を出すな!俺は「ある人」に頼まれてお前を守りに来たんだ。』

珞『ある人?!』

K『シー!!その人はお前がよく知る人物だ。誰かは言えねぇけどな。』

珞『信じられっか!そんな事言って惑わして今頃Mが・・・・リック!!!』

K『Mもいるがマジでリックが狙いじゃねぇって!』

その言葉を言い終わると同時に俺はKに口を抑えられてしまった。
背後でKが息を整えているのを聞きながら俺は頬を何かが流れるのを感じた。
手で触れて確認しようにも体を上手く動かせない。

俺の頬を流れる何かは口を抑えているKの手に伝りKが顔を覗き込んできた。

K『・・・え?』

珞『??』

唖然とし力を抜いたK。
Kの腕から解放された俺は流れるものに触れて手を見た。

珞『・・血?・・っ?!』

更に伝っていくと傷がある。
あぁ・・これはレイルと初めて会った時の傷だ。
ガラスの破片が刺さってできた・・・全治二週間の傷。

珞『そっか。まだそんなに経ってないんだよな。』

血を眺めていた俺の肩を掴んだKは俺が冷静でいる内にと話し始めた。

K『麗子に気をつけろ。』

珞『は?』

Kの言葉に納得できず首を傾げると背後の扉が開く音がした。
慌てて振り向いた先には零の姿。
だけど・・いつもと違う。

零『こんな所で何してるの?』

またあの目。
堺一から零へと変わったときと同じだ。
レイルと同じ・・冷たい目。

零『また一人で冒険?』

口は笑っているように見えたのに目は・・
そんな事を考えながら振り返ればKの姿はなかった。

珞(逃げたか・・)

零『珞?』

珞『ん・・行こう。』

俺は零と一緒に部屋を出て三階に向かう。
階段にさしかかり何も喋らない零を横目で確認すると何かを必死に考えているようで
一点を見つめている。


俺は元レイルの部屋の前で立ち止まると唖然とした。
ドアにはRAKUと書かれた鉄製のプレートが下がっている。

珞『お前らの部屋にだってこんなもん無いのに何で俺だけ・・。』

零『・・優しさじゃない?』

珞『んな訳あるかぁ!!もういい!寝る!!』 

零の馬鹿らしい答えに俺はプレートを無理矢理外すとそれを持って部屋の扉を開けた。
中は殆ど変わっておらず多分簡単に清掃しレイルの私物を運び出しただけのようだった。
俺は背後から部屋を覗く零を押しどけながら中に入る。
そして扉から顔だけをだして言った。

珞『いいか?今後俺の部屋には勝手に入るな。』

自室を貰えばこっちのもんと笑ってみせ扉を閉めるとプレートをゴミ箱に投げ捨てベッドに横になった。
俺はやらなければいけない事が多すぎて頭が混乱しそうだった。
その為に俺は家に帰ることを考えるのをやめた。



それから一ヶ月。
俺は情報収集に集中し、レイルとも零とも顔を合わせないようにしていた。
二人も何も言ってこず様子を見ているようだった。
唯一俺と話をしていたのはリックだけ。
Kとメイドに紛れているだろうMも俺には接近してこない。
そして八月の中旬。


珞『暑・・』

リック『仕方ないよ。夏だし。』

珞『暑・・』

リック『・・しつこいな。』

珞『あーつーいーっつんだよ!!』

リック『エアコン壊れてるんだから仕方ないでしょ?!』

俺は廊下で項垂れてしまった。
夏真っ只中に屋敷中のエアコンが壊れてレイルと零は外に逃げていった。
そんな中情報を集め終わった俺はリックを呼び出しリビングに移動していたが
暑さのせいで階段を下りるのも怠い。

俺の様子に暑さのストレスを感じているリックが怒鳴るが俺は吹き出てくる汗を拭う気力もなく仰向けになって転がった。

リック『もう・・君が頼んできたから壊したのに・・修理する?』

珞『う・・・・駄目だ。』

そう。実は屋敷中のエアコンを故障させたのはリックでそれを頼んだのは俺。
こうすればレイルと零だけでなく綾子も屋敷を出て行くと思ったから。

予想通り綾子は実家に帰ると言って今朝出て行った。
レイルは執事にエアコンの修理を頼んで出て行ったし
業者も夕方には仕事を終わらせるだろう。
そう考えると午後を過ぎたばかりとは言え一刻も争う状態だ。

俺は奮起して立ち上がり一気に階段を駆け下りる。
・・・後からマイペースに降りてきたリックは階段下でうつ伏せに倒れている俺の両手を引っ張ってリビングに入った。

リック『で?レイルと零は君が何かを隠していることはお見通しみたいだよ?』 

珞『だよなぁ。ほら俺の部屋にさ、レイルと零の部屋に移動できる扉あるだろ?
絶対夜中にそこを開けて俺の部屋漁ると思ったのに開けられた形跡はなかった。』

リック『なんで分かるの?』

珞『俺の部屋側からセロハンテープ貼ってたんだよ。』

リック『開けたら粘着力弱くなるから分かるって事?そんなの後から貼り直したら分からないでしょ。』

珞『甘い!俺はそのテープを下から三センチ目に張ったんだ!ぴったり三センチ目だぞ?!』

リック『試したの?』

珞『しようと思ったら向こうから鍵かかっててできなかったんだ。
因みに資料を作り出した時には俺の部屋には鍵つけてたし
俺が集めた情報をレイル達に見られてはないと思うんだけど・・。』

リック『鍵なんかつけてんの?』

珞『ん。何かさ脅迫してるはずなのに皆喜んで口わるし、綾子たちの目を盗んでなら
頼みごとも聞いてくれるようになって・・。』

リック『へぇ。凄いね。』

俺は一ヶ月前にリックにも俺の部屋に近づかないように言っておいた。
もしリックが俺の部屋にいることがバレたらリックも共犯だとバレてしまう。
それよりもレイルたちが仕事で出かけている時に綾子の目を盗んで話をした方が無難。

情報をかき集めた今。
メイド5人を除いたレイルの屋敷内の部下たちは俺の味方だ。



珞『さてと。最終的な結論だけどさ。』

リック『ようやく本題だね。』

珞『レイルを専属で付けている政治家・・神田暢久(かんだのぶひさ)。あいつを潰せば
一発なんだよ。』

リック『それは情報収集は無駄足だったってこと?』

珞『いや?調べたところ神田暢久は落ち度のない完璧な政治家・・と見せかけている
ピエロだったよ。外では笑っちゃいるが裏では相当だな。
暴言、暴力、女の俺が口にできないところまで・・。
部下を部下と思わないところは綾子ソックリだ。
綾子が人質にとってる人間は皆あの男の回りで仕事をしてる。』

リック『ふ〜ん。』

珞『何故そんな男の回りで仕事を続けてると思う?』

リック『え?う〜ん・・・え?!』

珞『そうゆこと!!神田暢久は部下の親族を人質に取り働かせてるんだ!』

リック『両方の人間が人質ってこと・・?』

珞『あぁ。調べてみたら神田暢久の周りで働く人間は殆ど家族や親族に恵まれていないんだ。
例えばここで働くメイドの旭は妹を人質にとられてる。
旭は幼い頃に両親を事故で亡くしてて、その両親は駆け落ちで結婚してるから
頼れる親族はいない。
妹は旭だけ。旭は妹だけ。そんな環境の人間を集めることで
あいつは秘密を漏らさずに昇格できたんだ。』

リック『へぇ。裏社会に関係のある人間を集めることで裏社会の秘密を守る・・ってことは良くあるんだけど・・まさか人質を作って自分のストレスを解消するとはね。』

リックは俺の言葉に一々頷き納得している。

そう。これは悪循環。
両方が人質。両方が守られている。

珞『両方が人質ってなると俺も下手に動けない。』

リック『どちらかに自殺なんてされたら後味悪いね。』

珞『俺は全員を無事に助けたいんだ。』

リック『綾子を除いて?』

珞『・・・・あぁ。』

この屋敷内の殆どの人間を苦しめた綾子を俺は許せない。
最近何故か俺にちょっかいを出してはこないが様子を伺ってるのは分かる。
何かしら企んでるんだろう。

沈黙が流れたとき、メイドがリビングに入ってきた。
俺を見ると視線を逸らしリックにだけ一礼し扉を閉めた。

そう。
こいつらも何とか救わなきゃならない。

リック『今のって・・まずくない?』

珞『・・・いいよ。どうせもうすぐ終わらせるつもりだしな。』

今出て行ったメイドは俺が近寄れない5人のメイドの一人。
何でもレイルと一晩を共にした後に酷い拷問を受けた子たちらしい。
そのせいかあの5人は綾子には決して逆らわない。
助けると言えば口を開くんじゃないかと思ったが他のメイドに止められた。
俺も下手をして計画を潰すよりは後に助ける方法を考えた方が利口なのかと思ってしまった・・。

リック『まぁ助けると言っても神田暢久を一撃で仕留めるのは無理だよ?
かと言ってメイドたちに自分も被害者だとも言えない。
珞、君はどうするつもりなの?』

珞『・・神田暢久に会いにいく。』

リック『どうやって?』

珞『どうにかして。』

リック『僕と君で?』

珞『・・お手伝いさんを雇ってある。』









玄関にて。
レイルは零と共に帰宅した。
側には綾子の姿もある。
メイドが駆け寄り三人の荷物を受け取ると一礼し去っていく。

レイル『珞はまだ部屋に閉じこもってるのか。』

零『かもね。もう一ヶ月になるよ。』

綾子『本人が望んで閉じこもっているのですから心配ないですよ。』

レイル『・・綾子、お前・・』

レイルは綾子に向き何かを言いかけたが綾子の悲痛な表情に視線をそらした。
綾子の心に黒い感情が溜まっていく中若い執事がレイルに駆け寄ってきて叫ぶ。

執事『レイル様、大変です!』

レイル『何だ。』

三人がリビングに向かっていた中。
若い執事はレイルの前方に立ち膝をついた。
そして。

執事『珞様の姿が見えません!』

3『?!』
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