創作小説

□1/3 1話〜3話
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案内された部屋の扉を開くと中には家族と狛、そして狛の恋人がいた。
怜夢の子供はこの場にいない父に任せたのだろう。

・・きっと何も聞かされていないのだろう。
酷く怯えているようだ。

全員が椅子に座らされ待つように言われた。
俺の隣には怜夢と狛。

怜夢は何をしでかしたのか聞いてくるが、何と説明していいものか分からない。
ただ、悪いことはしてないとだけ言った。

暫くしてドンが何枚かの写真を持って現れた。
机の上に並べ始め全員が立ち上がり写真を見に行く。
しかし、殆どの人間が目を背け口を抑えた。

確かに見ていられない写真だ。
写真を最後まで見ていたのはオッサン二人だけだった。

ドンは失礼と言って写真を片付け話を始めた。

ドン『此処に映っているのは、この街で殺害された人物です。
古いのもあれば最近のもある。
そして、これが今日殺された人物たちの写真です。』

誰も見に行こうとはしない。
ドンは写真を並べたままホワイトボードに何かを書き始めた。
その背中に怜夢が声をかける。

怜夢『あの、うちの珞は殺人事件の目撃者という認識で良いのでしょうか?』

ドン『えぇ。本来ならとても必要な人物です。ですが・・今回は違う。』 

そう言って前を向いたドンはホワイトボードに書かれた二文字を俺たちに見せた。
表と裏。
ホワイトボードにはそれ以外書かれていなかった。

ドン『目撃者がいて嬉しいのは表の事件だけです。
裏の事件は違う。』

そのドンの言葉に反応したのは利映(りよん)だった。

利映『裏って何ですか?』

利映は下の姉。天然で世間知らずだが近々結婚が決まっている。

ドン『どんな物にも裏と表がある。硬貨にも紙にも・・人間の顔や性格にも。
そして大きく言えば社会にも裏と表がある。
この事件は・・裏社会の事件なんです。』

狛『おい、オッサン。凡人にも分かるように話せよ。こっちは一般市民だぜ?』

ドン『あぁ、すまない。先ほど見せた写真、そしてこの写真。
犯人は分かっているんです。だったら何故逮捕しないのか。
それは、しないんじゃない・・できないからだ。』

怜夢『この・・写真の方々は何故殺されなければならなかったのでしょう?』

怜夢の言葉にドンは先ほどの写真を再度並べ右と左に分けた。

ドン『右にあるものは愚かな事に裏社会の人間に逆らいました。
犯人は分っていると言いましたが右にあるものは全て
大勢での犯行です。
そして左にあるこの写真。この写真の人物達はたった一人が殺しているのです。
この左右の写真には違いがあるのがわかりますか?』

ドンの質問に勇気を出して狛が机へと向かっていく。
そして左右の写真を見比べていたかと思うと左の写真を手に取り全てを確認していく。

狛『これ・・右の写真は直視できねぇのに左の写真は綺麗だ。』

怜夢『見せて。』

狛の言葉に怜夢が駆けつけ写真を見ていく。
そして怜夢の旦那さんや、狛と利映の彼氏まで机に向かう。

怜夢『・・一撃で確実に仕留めてるのね。』

ドン『そう。そしてお姉さんの質問の答えを続けますと・・。
左側の写真の人物たちは犯人の顔を見て・・殺されたのです。』

言葉を言い終えると同時にドンは俺を見た。
この時、なんというのが正解だったのか。
俺は予想できていたのもあって冷静だった。

ドンの視線を辿り全員が俺を見る。

珞『まるで八尺様だな。』

冷静でいれても流石に笑えなかった。
次に口を開けば歯がかち合う程に震えてしまいそうで、俺はその先の言葉を飲み込んだ。

怜夢がドンにすがりつく。
怜夢は既に冷静さを失っていた。

怜夢『この写真の奴らはそいつを見て何日後に殺されたんだ!』

ドン『お姉さん、落ち着いて!』

怜夢『テメェ落ち着いてられんのかよっ?!』

掴んでいたドンの胸ぐらを離し、突き飛ばすとドンはホワイトボードにぶつかり
ホワイトボードは音を立てて倒れた。

直ぐに何人かの刑事が中に入ってきて怜夢を抑える。
しかし怜夢は、現役の頃から劣らない足技で何人かの刑事を負傷させている。
狛は俺に駆け寄ってきて何かを聞いているが、俺の耳には届かなかった。

刑事『ドン!メールが届きました!!三日です!!』

ドン『なに?!』

騒がしかった室内は一気に静まり返った。
皆が三日・・三日と呟いている。

刑事『三日・・今までで一番時間をかけてきましたね。』

怜夢を抑えていた刑事がドンに言うとドンは俺に駆け寄り肩を掴んだ。

ドン『三日だ!三日間耐えるんだ、珞!そうすればいつもの日常に戻れる!!』

珞『え?』

ドン『この写真の人物たちの何人かはその場で殺されているが何とか逃げ切った奴もいた。
そして今のお前の現状に置かれたんだ。あいつは警察が保護していると知ると
署内のパソコンに堂々と宣言してきた。何時間・・何日後に殺すと。
そして逃げ延びたものは一生その人物について語らないことを誓わされるが
元の日常に戻される。』

珞『何人が助かったんだ?』

ドン『・・一人だ。』

ドンの言葉には絶望も希望もあった。
怜夢は直ぐに俺の腕を掴み部屋を出ていこうとしたがドンがそれをとめる。
三日・・。時間にすれば72時間。
そこを耐えればいつもの日常に戻れる。

今までは何となく現実味がなかったが制限時間を告げられただけで現実味が沸く。

雪(せつ)『珞、頑張れ。俺たちはどんなサポートもする。』

珞『雪兄・・』

春輝(しゅんき)『きっと助かるよ。今は信じよう。』

珞『春輝くん・・。』

龍(たき)『っつーか、俺らが助けるし!ね?』

珞『龍さん・・。』

声をかけてくれたのは男たち。
雪兄は怜夢の旦那さん。
春輝くんは利映の婚約者。
龍さんは狛の恋人。

皆普段から一人ぼっちの俺の相手もしてくれる優しい人たちだ。

怜夢『珞は・・どこで保護されるんでしょうか?』

ドン『いざという時の為に作ってある特別室があります。
この建物の地図にも、設計図にすら載っていない特別な場所です。
そこでなら・・嫌、そこでしか珞を守る事はできないでしょう。』

狛『その特別室を守るのは何人なんだ?』

ドン『多くて十人』

狛『足りねぇ、もっと増やせよ。』

刑事『しかし犠牲者が』

狛『ふざけんなっ!テメェ等の命なんて知ったこっちゃねぇんだよ!
いいか、もしも珞に何かあったら、あたしがテメェ等殺してやる!
珞の命を自分の命と思って守りきれ!』

雪『狛、その辺にしとけ。』

興奮しきった狛をなだめたのは雪兄だった。
雪兄は聞き足りないようでドンに質問していく。

雪『その・・珞の命を狙う人物は裏社会でどのポジションにいるんでしょうか?
もしも下の人間なら当人が許しても上が許さないのでは?』

ドン『トップです。既に亡くなってしまった人物の証言です。
あの写真の右側に映っている方なので間違いはないかと。
彼は幼い頃からトップとして育てられてきたとか・・。』

雪『そうですか。その裏の社会に警察は手が出せないという認識で良いのですか?』

ドン『はい。』

雪兄の厳しい質問にドンは言い訳をしなかった。

珞『あのさ、割り込んで悪いんだけど・・俺証言するよ。』

狛『はぁ?!』

怜夢『アンタ馬鹿?!』

ドン『そうだ、珞。やめとけ。相手を逆上させるような事はするな。
大人しくしてるんだ。』

珞『でも助からないかも知れないんだろ?!だったら俺は無駄死になんてしたくない!!
俺は相手の顔をハッキリ見てる。車の中の人物は見えなかったけど・・。
間違いない、きっとあいつがトップの人間だ。見たこともない恐ろしい目をしてたっ!!
あいつは殺るよ、きっと俺を殺す!!何処で誰が守ろうと殺すと決めたら殺すんだ!!
一人助かったのはきっと殺す理由がないからだ。
だけど・・俺は違う。生きていれば必ず誰かに喋ってしまう。
あいつは俺の顔もハッキリと見てるんだ!!』

春輝『珞ちゃん落ち着いて!!』

珞『だから俺は』

そこで俺は気を失った。
どうやら背後にいた刑事にスタンガンをあてられたようだ。




次に目を覚ました場所はベッドの上だった。
ドンが言っていた特別室だろう。室内には監視カメラが至るところに設置されている。
時計は無く家具も殆ど無い。

どれだけ寝ていたのか分からないから残された時間が後どれだけなのか分からなかった。

何をしようか迷っていると特別室のドアが開いた。
其処にはドンと白衣を着た男の姿。

珞『ドン・・やってくれたな。』

スタンガンを当てられた場所を摩りながら言うとドンは両手をあげて言った。

ドン『俺じゃねぇぞ。新米がやりやがったんだ。俺はあいつがスタンガンを持っていた事すら知らなか』

『いけませんね。』

ドンの言葉を遮ったのは白衣の男だった。
首から下げられた名札には堺一(さかいはじめ)と書かれている。

白衣姿からは連想できない金髪頭が室内のライトを反射させている。
ドンの言葉を遮った堺はゆっくりと俺に歩み寄ってくると俺が摩っていた箇所を診察し始めた。

堺『部下が隠し持っている武器にも気づかないで、「彼」を敵にまわすつもりですか?
そんな生半可な覚悟では彼女は死んでしまうでしょう。』

堺の言う彼とは裏社会のトップの事だろう。
堺の言葉にドンはグウの音すらでないようだ。

堺『この部屋には今後誰も入れないで頂きたい。彼女と私だけ。
それ以外の人間は例え貴方でも遠慮願いたい。』

ドン『分かった。だが、今から五分でいい。君も居てくれて構わないから
珞と話をさせてくれ。』

堺『いいでしょう。』

ドンの申し出をすんなりと受けた堺は先にソファーに腰掛ける。
空気を読んだつもりで堺の横に座るとドンは向かいに座った。

ドン『珞。お前の事は俺が命をかけて守る。』

開口一番の言葉に少し胸を痛めた。
どんなに現実逃避をしようとしても全ての人間の全ての言葉が現実へと連れ戻す。

ドン『お前の質問に答えていなかったよな。』

ドンの言う「お前の質問」に一度首を傾げた。
記憶を回想させると一つだけそれらしきシーンがあった。

珞『「ここが目的だったとは・・」って言葉にたいしてした質問か?』

ドン『そうだ。あの時、数箇所に刑事や警察が配置されていた。
俺たちは裏の世界には関われない。だが、アイツ等のやろうとしている事を阻止することは許されているんだ。だからこうしてお前を守ることもできる。
えっと・・だから。』

ドンは短時間にまとめて話そうと必死になりすぎて何をどう説明していいのか
分からなくなっているようだ。
それをフォローするように堺が口を開く。

堺『要するに警察という組織に通ずる各世界の情報網から情報を取り寄せ
「ここで何かしらが行われそうだ」って場所に人を配置し事件が起こる前に阻止する。
しかし、裏の世界の人間だって馬鹿じゃない。
多くの曖昧な情報をわざと流し本来の目的を達成させていく。
警察は誰の情報が一番正確なのか判断しなくてはならない。
今回は外れたようですね。』

分かりやすい堺の説明に俺はひたすら頷いていた。
だからあの時ドンはあんな事を言ったんだ。

堺『さて、そろそろ出ていただけますか?
私は警察という組織は信用していないのでね。』

珞『待て待て!此奴は誰なんだ?!』

まとめて切り上げようとする堺を止め、立ち上がりかけたドンの裾を掴む。
いきなり入ってきた白衣の男に困惑するなと言うのは無理な話だろう。

ドン『あぁ。この男は例の男だよ。ほら・・。』

ドンは言葉を濁すように言うとそれ以上は気まずい表情をして言おうとしない。

珞『・・逃げのびた一人・・?』

ゆっくりと堺に向くと堺は俯いてしまった。
ドンは一礼をし部屋を出て行く。
扉が閉まってしまう前にドンは手で顔を覆っていた。

きっとこの先の事が見えているんだろう。
俺にだって見えそうだ。

額に弾丸を受け、気づいたら母さんが川の向こうで手を振っている・・そんな未来が。
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