創作小説

□1/3 13話〜15話
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執事の言葉に同じ表情をした三人。
レイルと零は階段を駆け上がって行ったが綾子はその場に立ち尽くしていた。

綾子『どういうつもり?』

執事『は・・おっと・・・』

綾子が見下げて言うと執事は顔をあげて顔を引きつらせた。
綾子の目が怒りに燃えている。
全身を震わせ今にも噴火しそうだ。
若い執事は綾子の質問に答えないまま立ち去ろうとしたが綾子は自分に向けられた背を思い切り足蹴にし若い執事をとどめた。

綾子『あたしの前で「珞様」って呼ぶんじゃないわよ。アンタ・・麗子と同じようになりたいの?』

うつ伏せで倒れた執事の背中をピンヒールで踏みつけると意味ありげな言葉を放ち綾子は笑った。
しかし。若い執事は綾子の足を払うように立ち上がると、綾子の胸ぐらを掴み見下げて言った。

K『あんまり調子に乗るんじゃねぇぞ、ガキ。麗子?やれるもんならやってみろよ。
こっちは失うもんなんかねぇぞ?テメェの心臓抉られたく無きゃレイルの横で大人しく微笑んでろよ。』

綾子『なっ!』

K『あとな。自分が利用してる側だってーのは「思い込み」だってそろそろ気づけよな。』

綾子の反論を聞かず言い切った若い執事に扮したKは階段を駆けあがりレイルたちを追った。
残された綾子は怒りに拳を震えさせたが若い執事の言った言葉を思い出す。

綾子『・・珞がいない?・・ってことは。探させなきゃ良いじゃない。』

探させない事が自分にとって都合が悪いとは思っていない綾子は麗子の部屋へと向かった。
麗子の新しい部屋は一階にある。
珞は何故麗子の新しい部屋が一階・・主にメイドたちの部屋がある階に置かれたのか考えていなかった。
いや・・考えられなかった。
この時、レイルたちを追わずに一階に留まった綾子に冷や汗を流していた。
応接室の室内で。

リック『・・・・・今の執事ってまさか・・・・・。』

珞『は、はは・・。』

綾子の立ち去ったエントランスに二人は出てきた。
そして珞はリックに胸ぐらを掴まれ執事の正体について追求されていた。

珞はKとMの事は伏せたまま協力させる予定だった。
だが執事に扮したKのあの行動はただの執事ではないと名乗っているようなもの。
綾子は気付いていないようだが、側に置いていたリックはKが綾子の胸ぐらを掴んだ瞬間に気づいたようだ。

珞『あいつ変装は上手いが演技は0点だな・・ね?』

リック『ね?じゃないよ!どういうつもり?何でアイツ等がいんの?
っていうか、いつから?なに?君は僕を裏切るつもりなの?』

珞『お、落ち着け。早くしねぇとレイルたちが降りてきちまうだろ。』

リック『これだけ時間がかかってるって事は君の部屋に鍵がついてることに驚いて手も足も出ない状態なんだよ。』

珞『で、でも!アイツ等の部屋から中に入れるし』

リック『そんな頭回ってないんじゃない?いいから説明』

リックがそこまで言い切ると二人の耳に予想外の音が響いてきた。

珞『じゅ、銃声・・・?』

リック『ね?』

珞『ね?じゃねぇよ!俺の部屋どうしてくれんだ!!』

リック『ほら。早く言わないとレイルたち降りてきちゃうよ?』

珞『あ・・あの・・』

珞は口をパクパクさせながら混乱している。
言ってもいいものか。しかし言わなければ計画が台無しになる。
フリーズ寸前の所で珞は言おうと決意したが
珞もリックも気づけば外に出ていた。

珞『・・あれ?』

K『あれ?じゃねぇよ。何でまだ中にいんだ。』

珞とリックは体をKに抱えられ外に連れ出されていた。
Kは足を止めることなく屋敷の裏へと走って行き、目的地につくと二人を下ろした。

リック『お、お前!』

K『うるせぇよ、ガキ。静かにしろ。見つかんだろうが。』

下ろされたリックはKに掴みかかろうとするがKはリックの頬を思い切り引っ張り説教をした。

リック『い、いひゃい・・』

珞『おいK、やめろよ。』

K『・・いいかリック。俺たちはもうお前を追っちゃいねぇ。
再建すんだろ?親探しを諦めたのなら殺す理由はねぇから安心しな。』

Kはリックが頷くのを確認してから頬から手を離した。
そんな三人の元にMが上から降ってきた。

K『おわ・・あぶねぇ!』

M『うるさいわね。この屋敷のセキュリティを一時停止させたのは誰よ?あたしでしょ?
ってことはあたしの御蔭で外に出られたんだから』

K『とにかく。これで屋敷はクリアだな。次はレイルたちが出ていくのを待つぞ。』

M『聞きなさいよ!!』

Kの華麗なスルーにMが怒鳴ると珞が慌てて口を抑える。
ここで今回の作戦を説明しよう。

まずは帰宅したレイル達に珞がいないと告げる。
レイルと零が珞の部屋に行き鍵を突破したあと室内を物色中に珞とリックが外に出る。
(この間Mによってセキュリティを一時的に停止してもらう。)
そしてレイル達が外に出た所をみてから珞たちは屋敷の裏から移動開始。

リック『だけど何でレイルたちが出てからじゃないと駄目なの?
レイル達が帰ってくる前に出たほうが無難だったんじゃ・・。』

珞『実はそうした方がリスクが高いんだよ。』

リック『え?』

珞『だってレイルたちが何処を探してるか分かんねぇし、何を考えて行動してるのか理解しとかなきゃいけないだろ?』

M『だから綾子に盗聴器と発信機を仕掛ける必要があったの。』

リック『えぇ?!じゃぁさっきのは演技ってこと?!』

リックは完全に騙されたと口を覆ったが褒められたはずのK自身は明後日の方向を見ている。

M『演技ね・・演技・・じゃぁないわよね?』

K『猛省してます・・』

冷や汗を流しながら答えたKに珞は笑うと唖然としているリックに説明する。

珞『別にあそこまでしなくても仕掛けられただろ?まぁでも、御蔭で一緒に探しに出るか不安だったけど心配いらなくなったな。』

M『結果オーライね。』

K『本当にすんませんでした。』

深々と頭を下げたKに呆れていたリックは玄関の開く音に身を屈めた。
珞も続いて身を屈めたがMとKは二人から離れ奥へと行ってしまった。

レイル『何処に行ったのか見当もつかないのか?』

零『家に帰った・・とか?』 

レイル『あいつの性格を考えればそれは無いだろ。』

綾子『二手に分かれますか?』

レイル『あぁ。最初はそうするべきだな。』

零『・・屋敷周りから探すんだね?』

リック『?!』

レイル『・・俺は別行動をとる。』

珞『?!』

レイルたちの会話に思い通りにいかない苛立ちを感じた珞だったが
すぐに変装を解いたMとKが戻ってきて移動を始めた。

M『足場悪いから気をつけてね。』

珞『あぁ。』

ヒールで器用に先頭を進んでいくMに続く珞。
懐中電灯は使えず真っ暗な中を何とか進んでいく。

珞『レイルだけ別行動は痛いな。』

K『どこに行くつもりなんだ?』

リック『僕に聞かれても。』

男と女で前方後方に分かれて進んでいく中、Kはリックに問うがリックは困った顔をしている。
MとKの中でも今回のレイルの行動は不思議だった。
大事にしている珞を何故探しに行かないのか・・。

K『俺たちが思ってる以上に珞を大事に思ってない・・・?
いや。でも冷静なら監視カメラをチェックするはず・・。』

セキュリティを一時停止させただけの為、監視カメラを確認されれば珞たちが外に出た映像はないため見つかる可能性が高くなる。
しかし、そこはMとKの予想通りにチェックすることなく捜索に出た。

M『調べてみる必要があるわね。K、本部に戻って調べてきて。』

K『何で俺なんだよ?!』

M『うるさいわね。あと、邪魔だからその坊やも連れて行って。』

リック『なっ!邪魔だって?!』

Mの口撃に二人は反論しようとするがMはそれを制した。

M『うるさいって言ってんのよ。パソコンはあたしが持って行くから何か分かったら連絡しなさい。』

リック&K『・・はい。』

悲しい男の性か。リックとKはつい承諾してしまった。







――珞&M――

珞『別行動なんてとって良いのか?』

何とか道に出た俺たちは歩道を歩いていた。
Mはジッとパソコンを見つめているが俺の言葉に顔をあげると優しく微笑んだ。

M『いいのよ。レイルの別行動の理由も知りたいし・・何よりあのままリックと行動を共にする方が危険だわ。彼にとってあたし達は自分を殺そうとした相手だもの。女のあたしが口説くより同じ男であるKが行動を共にしながら警戒心を解いてくれた方が無難よ。』

先ほど二人の男を脅迫した女とは思えない笑顔で言うMに安堵した俺はMのパソコンを覗き込む。

珞『まだ動きはねぇの?』

M『今綾子が玄関前に戻ったところよ。この子独り言が多くて嫌になるわね。』

片方だけイヤホンをつけていたMはそれすらも取り頭を軽く振っている。

珞『なんて言ってるんだ?』

M『・・・聞かない方がいいわ。』

Mの言葉に全てを悟り俺は頷くと近くにあった町内地図を見ていた。

珞『こんなとこにあるのか。レイルの屋敷は。』

M『知らなかったの?』

珞『車内では気を失ってたしな。何だ、警察署まで車で二時間ぐらいの場所か。』

M『・・帰りたい?』

Mは疲れたのか軽い段差を見つけると腰をかけてしまった。
地図を見つめたままの俺はMの言葉にこめかみに手を伸ばす。

いつの間にか破片の傷は完治していた。
痛みを忘れた訳ではない。恐怖を忘れた訳ではない。

珞『そりゃ、いつかはな。でも今は考えないようにしてる。
俺は俺に協力してくれたアイツ等を助けたいし・・
それに・・。』

M『レイルが気になる?あ、零の方かしら?』

珞『ち、違うって!俺はただ・・麗子の事が気になるんだ。』

M『・・麗子・・。あの女に関しては綾子に任せたほうが良いわ。』

珞『なん』

M『あ、零たちが動き出したわ!ここは確実に通る道だから急ぎましょう。』

Mは立ち上がり再度歩き始めた。
パソコンを見つめたままイヤホンをつけて暗闇の中を歩いていく。
そんなMの背中を見て思った。

・・何故いつも麗子の話になると皆口を重くするのか。
詳しい話を聞こうとしても必ず邪魔が入る。
メイド達にも聞いてはみたが、あの辺の奴らは麗子の事は知らないらしい。
麗子が来る前から屋敷で勤めていた執事の爺さんも詳しくは知らないと。
周りの反応を見て麗子にはあまり関わらないほうがいいと思った・・と。

M『タクシーをつかまえましょう。』

珞『は?』

俯いて考え込んでいた俺にMが声をかけた。
思わず聞き返してしまったがタクシーとは・・一般人に関わってもいいのか。
不安を隠せない俺にMは優しく微笑み言った。

M『平気よ。寧ろ零たちと近い距離にある今、機関と連絡を取るほうが危険だわ。
多分今頃Kたちもタクシーをつかまえてるわよ。』

表の世界は案外俺に安心感を与えてはくれなかった。
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