宇宙の病院船(妄想)


□II
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ビルキスはこの事件の直後、キースに代わって院長となった彼の妻レイチェルに、自分がイッザと対面するある目的を伝え相談した。レイチェルは驚いたが、ビルキスの意志が固いことを知り、最終的に彼女に任せると言った。ビルキスはイッザの病室で対面し、彼の兄ともろともに爆死したのが自分の兄であること、彼の正体を知っていることを告げた上で、話をしたいと言った。イッザは既にインターポールに引き渡される覚悟をしていた。


ビルキスはまず、なぜこの病院に入院中の要人を狙ったのかを問うた。イッザの答えは、要人を殺害すると共に、保険外の最先端医療を受けていることを暴露して、医療も満足に受けられない母国の民衆との格差を訴えるためだったという。


何故自殺を図ったのかという問いに、イッザは自分の手落ちで兄が目的を遂げぬまま死んだからだと答えた。

イッザはクラッカー(犯罪目的のハッカー)としての能力も高かった。施設にシェルターがある場合、予めシステムに侵入して設置場所を探知、テロ実行時にシェルターが作動しないようにしておく。だがキースは周到な防御策を取っていて、イッザがアクセスして作動不能にしたと思っていたのは、偽のシステムだったのだ。


自分のせいで兄も、兄の妻も死んだ。お腹の子も。もう組織に戻るつもりもない。自分に生きている意味はない。


そう言うイッザに、ビルキスは危うく殴りかかりたくなるぐらいの怒りを覚えた。辛うじて激情を抑えて言った。


「生きる意味がない? そんな人間に命を奪われた多くの人はどうなる? あなたの兄と相討ちになった私の兄は? そう簡単に兄の人生まで無意味にされてたまるものか」


そう言いながら、キースの名を聞いて、イッザの表情に激しい動揺が走ったのにビルキスは気づいた。


「…俺は、あんたの兄みたいな人間がいるとは、今まで思ってなかったんだ…」
イッザはようやく低い声で呟くように言った。

キースが身を挺して患者を守ったことに、イッザは衝撃を受けている。そのことを確かめてビルキスは最後の決意を固め、話を切り出した。
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