宇宙の病院船(妄想)


□II
3ページ/4ページ

「あなた達が起こしたテロのために、兄がめざしたメディカル・スペースシップの計画は止まってしまった。でも絶対に諦めず実現させる。兄の行動に少しでも心動かされたのなら、生きる意味がないと言う前に、せめて自分のしたことの後始末をして」
「…俺に何ができる」
イッザは抑揚の無い声で言った。
「メディカル・スペースシップの操縦士として、私と宇宙に上がって欲しい。期限は、救命の実績を挙げて計画が実現するまで。但しその後はインターポールに自首すること。メディカル・スペースシップにいたことは一切口外しないこと。それができないと言うなら、今すぐインターポールに引き渡す」
ビルキスは続けた。
「ここで自殺はさせない。自分は医者だから。どんなに憎くても、存在を認められない相手でも、患者である以上、その命を守るのが仕事だから。このまま逮捕されるか。それとも宇宙に上がって、今までと全く逆の立場になってみるか。何としてでも守らなければならない、今にも消えかねない命を乗せて、一度でも操縦してみるか?」 ビルキスはイッザに迫った。
「いいえ…選択ではなくて、私はあなたにそうして欲しいの。たとえ自分がこれからやることがテロ犯を匿う罪を犯すことだとしても。」


ビルキスは、イッザの操縦技術と、宇宙での「土地勘」、ハッキングの能力が、もう一度兄の計画を蘇らせるために何としても欲しかった。MSパイロットだった2番目の兄の元同僚ウォーレン・ゲイルが操縦士候補だったが、私的な救命船が宇宙で遭遇する最悪の事態を想定した場合、切り抜けるためにはイッザのような操縦士が必要だった。


もう一つ、イッザと話したビルキスには、直ちに彼を獄中に送ったところで、本当に自分の奪った命の重さがわかるのかというもどかしさがあった。憎しみや怒りの中にも、命を守ることが実際どんなものか身をもって体験させたい気持ちが一筋あった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ