宇宙の病院船(妄想)


□IV
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同じ小学校で助手だったこともあり、若いラシードとロヤーは、お互いに勉強や生徒への教え方のことなど相談し合うようになり、親密になっていった。因みに成績はいつも僅差でロヤーが一番だった。二人は教師になった後、結婚した。


サーイルとハーリスが生まれてからは、双方の家族に面倒を見て貰いながら、母ロヤーも教師を続けた。新世紀になった2300年、ザドキアで政変が起こり、長く続いた軍事独裁政権が倒れ、民主化政権が誕生した。

この政変は、旧軍政の腐敗や停滞を批判する若手の軍人がクーデターで独裁政権を倒し、軍政下で厳しい弾圧を受けながら『影の内閣』まで作って民主化をめざしていた政治活動家達を「擁立」して誕生したものだった。旧軍政派は、新政権の文民を武力で攻撃して政権を奪還しようとしたが、クーデター派はこれに対し同じく武力を以て徹底的に排除した。そのため、「ティエレンの装甲が守り育てた民主主義政権」と国の内外で揶揄を含んで呼ばれた。それでも、新政権は国際機関や富裕な隣国ダハール等の援助を受けつつ、貧しさから脱し、自立するために、人材育成をはじめ様々な政策を実行した。


新政権樹立当時の軍は、旧体制のように人々を締め付けることはなかった。旧軍政下で長く奪われていた言論・集会・結社・思想の自由も、ようやく憲法に条文が加えられ、国民の権利として認められた。ロヤーもラシードも旧軍政下での制約の多い教育にずっと悩んできたから、ようやく自分の頭で考え、疑問や批判を表現し、問題を解決していくことを正面から子供達に教えられるようになったと歓んだ。
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