宇宙の病院船(妄想)


□V
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両親が連行されて8日目の深夜、母ロヤーの古い教え子で今は治安部隊兵士のバドル・ラウダが、密かにハーリス達を訪ねて来た。


バドルが伝えたのは、ロヤーとラシードが、治安警察の手で殺害されたという惨い知らせだった。バドルはその日の未明、他の兵士と共に、二人の遺体を治安警察の建物から運び出し、郊外の人の近付かない荒れ地に埋葬するよう命じられた。


バドルは命令には従ったものの、ハーリス達に黙っているに忍びず、夜になるのを待って訪ねて来たのだった。バドルの案内で、彼らは埋葬場所に向かった。


掘り起こした父母の遺体には無数の殴打の跡があった。二人とも胸に弾痕があり、これが致命傷となったようだった。黒い布で押し包み、バドルの車に乗せて、村に連れ帰った。


車中、兄弟は一切の言葉を失っていた。激しい身体の震えが断続的にハーリスを襲った。隣席の兄は、前を見据えたまま、震える弟の手を強く握りしめた。両親は村の墓地の一隅に葬った。発覚した時に村自体に処罰が及ぶのを恐れ、人目を憚る慌ただしい埋葬であることが悔しかった。墓標の代わりにと、バドルがオリーブの若木を2本並べて植えてくれた。


両親の死の詳しい経緯は、バドルにもわからなかった。想像されるのは、現政権の方針に添って子供たちを教育することを、二人は拒否したのだろうということだった。治安警察が密告によって多くの人間を拘束していることも、バドルは話した。バドルは治安部隊を離脱して、政権打倒のためのゲリラ組織に加わると言って去った。


バドルは、ハーリスとサーイルに戦いに加わって欲しい様子だった。だが現政権は軍事的に圧倒的に優位で、今の反政府ゲリラの戦力ではとても太刀打ちできなかった。ハーリスは兄とともに故郷を離れ、ゲリラよりもっと過激なテロ組織に加わり、直接政府の要人を殺害することで政権を倒そうとした。この時ハーリスは16歳、サーイルは21歳だった。


テロという手段を使ってでも早く政権を倒さなければ、両親のように無辜の人々が次々と殺されていく。恐怖に駆られた人々は隣人を売り、犠牲者を増やす。多くの人がそのように弱いものなら、弱さにつけこみ恐怖で支配しようとするものを、暴力を使ってでも除かなければならない。誰かがやらなければならないのなら…だから自分はテロリストになった。
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