宇宙の病院船(妄想)


□VI
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必要なのは、まず壁新聞をつくる大判の紙。彼はA4サイズの縮小版も作りたかった。本来の意味とは違うけれど、「号外」として皆に配りたかった。直接人々に手渡す勇気が出るかどうかはまだ彼自身にもわからなかったが、まず、作りたかった。そのための用紙代。最寄りのアンワル市内の印刷所にしか置いていないコピー機で、縮小版の原稿をコピーする代金。そこならセルフサービスで原稿を見られずにコピーできることを確かめていた。市内までのバス代。さすがに歩いて行くには遠い距離だったから。


ミシュアルはまず、A4の紙にロヤーとラシードの顔を並べて描き、壁新聞に貼り付けた。新聞の見出しは『先生はどこに?』2年間の自分の疑問をノートに下書きして、紙面に清書した。先生の行方と共に、いくら考えても解らなかったことも。


なぜ先生は教師にふさわしくないとされ、資格を奪われたのか? 
先生が自分たちに教えたことは、間違っていたのか? 
先生は、僕たちに自分の考えを他の人にちゃんと伝えられるように、
多くの他人の考えを自分で理解できるように、
たとえ意見の違いがあったとしても、そこからもっと良いものをお互いに考え出せるように、
教えてくれたはずなのに…一体何がいけなかったのだろう?


ミシュアルは学校や仕事を終えた後、両親に見つからぬよう深夜密かに作業を続け、3週間ほどかかって壁新聞と縮小版の原稿を書き上げた。縮小版は100枚コピーした。路上で手配りが無理なら、家々を回って配ろうと考えていた。


ミシュアルは両親が寝静まるのを待って家を抜け出し、アンワル市内へ徒歩で向かった。夜10時半過ぎ。もうこの時間になると、バスは通らず、そしてアンワル市内は、政府を批判する集会を封じるため、夜間外出禁止令が出ており、治安部隊が巡回しているのを、ミシュアルは知っていた。
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