宇宙の病院船(妄想)


□〈12〉
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「はじめは、畝の間の雑草取りからだ。慣れてきたら畝に生えたのを抜く。綿花は双葉から苗の時期が長いから、雑草と間違えて引っこ抜かないように気をつけなきゃならない。ふだんから、畝が草抜きしたばかりできれいな時に、綿花の双葉や苗を見て、よく覚えておくんだ。わからないことがあれば、わかるまで聞け。自分だけで黙ってやるんじゃないぞ。」


アドリーは仕事の呑み込みが早かった。作業を教える監督の手元を見詰め、草を抜く合間に周囲を注意深く見回し、抜いた雑草の置き場所を確かめ、まだ10センチにも満たない綿花の苗の葉や茎の形状を見覚えた。作業中に初めて見る虫を見つけると、殺していい虫かどうかその都度監督に尋ね、二度同じ質問をすることは滅多になかった。


監督のラザックは、はじめのうちアドリーのことを、覚えは良いが取っ付きにくい子供だと思っていた。大抵の子供は、作業に不慣れな最初のうちは、目に見えてまごついたり、監督に質問するのもためらったりするのだが、アドリーの言動には、そういうある意味子供らしい無駄が既になかった。彼は大人からみても最短の時間と方法で仕事のやり方を身に付けると、あとは黙々と身体を動かした。


この農園では、子供たちの就業時間は朝8時から夕方4時までだった。45分働いたら15分の休憩を取ることになっていた。にわか雨を避けたり、熱射病にかかるのを防ぐため、綿花畑の外側には休憩用の屋根型テントが常設され、子供たちはベンチに腰掛けて水分を摂った。昼の休憩は45分。この間に毎日イスハーク夫人が差し入れる、揚げパンやひよこ豆のコロッケや、サンドウィッチを食べて休んだ。ザドキアでは昼食の時間が遅く、子供たちは帰宅してから食事することになる。空腹をしのぐため、ナッツや干した果物を持って来る子も僅かにいたが、ほとんどの子供は夫人の差し入れを頼りにしていた。軽食が出ると子供たちも緊張が溶けてお喋りが始まるのだが、そんな時もアドリーは他の子供とはほとんど喋らなかった。
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