宇宙の病院船(妄想)


□〈12〉
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けれどほどなくラザックは、アドリーが自分の仕事に慣れはじめると、朝農園に来た時や休憩時間には、いつも彼の目の届く限りまで、周囲の子供たちをそれとなく注視していることに気付いた。貧血や発熱で体調を崩したり、熱射病を起こしかけている子を、彼は鋭敏に見つけ出し、ラザックに知らせてくるのだった。ラザックは具合の悪くなった子供の様子をみて、大概はアドリーに屋敷の離れにある休憩室に連れて行かせた。そこにはいつも当主ヤフヤ・イスハークの夫人であるライハーネがいた。ライハーネはアドリーが付き添ってきた子供たちの世話をし、掛かり付けの医者を呼んで診察させ、症状によっては注射や点滴を受けさせたり、処方された薬を持たせて子供を家に帰らせることもあった。


「どうしてそんなに人の具合がわかるんだい?」


ラザックはある時アドリーに尋ねた。そこにはまだ幼い彼に対して感心した響きがあった。


「…家ではいつも弟や妹を見てるから…親は朝が早くて忙しいので。」


アドリーはそうぽつりと答えただけだった。兄弟が多く、生活に追われる親に面倒をみるのを任されている子供は他にいくらでもいたから、家族より大きな集団の中で他の者を見渡して細やかな注意を払えるのは、アドリー自身に備わった何かとしかラザックには思えなかった。


ある時、アドリーは少し離れた場所でしゃがみ込んで草取りをしている少女の手元が止まりがちなのに気付いた。うつむいた少女の顔からは血の気が引いていた。


「ハナン、気分が悪いのかい?」


アドリーが立ち上がって声をかけるのと、ハナンと呼ばれた少女が力なくぺたりとしりもちをついたのは、ほとんど同時だった。


ラザックはあいにく苗や肥料を扱う出入りの業者の応対をしている最中で近くにはいなかった。アドリーはすぐさまハナンを負ぶって屋敷の離れに向かって歩き出した。アドリーは年の割には体格が良く力もある方だったが、ぐったりとしている三つ年上のハナンを背負うのはさすがに骨が折れた。よろめかないようにひたすら左右の足を交互に踏みしめて前に進め、息を切らせてライハーネのいる離れの建物にたどり着いた。


アドリーは扉の前で腰を落とし、背中からそっとハナンを降ろすと、建物の側面に回って、開いていた窓から大声で呼び掛けた。


「失礼します! 具合の悪くなった子がいます!見て頂けませんか!」
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