主人公について

□覚え書・超人機関の子供たち II
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約3年前に別所に書いた人革連についての長文から、超人機関の子供達に触れた部分を抜粋・推敲し独立の文としました。「覚え書・超人機関の子供達 I」の原点となる文です。


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人革連は、戦闘時の恐怖も不安も、軍という組織のパーツとして扱われることヘの抵抗感も感じず、ただ命令を的確に遂行する兵士が欲しかったのだろうか。

しかもモードを切り替えなければならないオートマトンのように機械的な能力ではなく、臨機応変で精妙な、人間にしか持てない高度の戦闘能力を求めた。突き詰めていくと、それが超兵の研究になるのだろうか。


それは、人間性を否定しながら、機能だけは人間にしかできないことを要求する、物凄い矛盾を孕んだ人体実験だった。


結局、超人機関が組織の存続を図るため辛うじて送り込んだのは、デザイン・ベビーに別人格を植え付けたソーマ・ピーリス唯一人だったことに、その矛盾は露呈していたと思う。


ソーマ・ピーリスの存在は、人と人との間に自然に生まれ育った子供を超兵に改造するのが、いかに困難だったかを示唆している。


超兵になれなかった子供達を待つのは「処分」という名の死だ。脱走を企てたり、脳量子波施行手術後に別人格が出現したりという以外に、心身が実験や訓練に耐え切れず脱落した子もおそらく多数含まれていただろう。


表れ方は様々でも、そうして亡くなった子供達は、脳の手術でも、機関に従わなければ殺されるという恐怖でも、なお押し込めることのできない、人間らしさを持っていたと思うのだ。


一見、ただ心身の弱さのために淘汰されてしまったかのような子供の中に、実は、感情も感覚もあるありのままの人間として扱われず、人間らしく生きられないことヘの、激しい拒否や、絶望的な抵抗が潜んでいたのではないだろうか。


むしろ苛酷な実験に順応できず、自分自身が生き延びるためにさえ、一人の他者の命も奪う存在にはならぬまま、「処分」されたことそのものが、その子にとってパーツではない「人間であること」を守る最後の砦ではなかったかと思う。


あの子供達はただ無力なままに命を断たれたのではない。沈黙の内に超人機関の存在に“否”を突き付けていた。そう意味を汲み取らなければ、彼らはこの世界に存在した意味を、喪ったままになってしまうだろう。



初出・2010/08/27 別所への投稿より

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