宇宙の病院船(妄想)


□II
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キースに要人暗殺を阻まれ爆死したテロリストの身元が検死で判明した。偽名の可能性もあるが、サーイル・シャラフ(24歳)と名乗っていた。自殺未遂を起こしたのはイッザ・シャラフ(19歳)、サーイルの実弟だった。


イッザは一時的に全身の機能を著しく低下させる特殊な薬物(非常に短時間で血液や尿からも検出されなくなる)を服用、先に救急患者を装って入院し、意識を回復後、暗殺対象の要人の病室など、内部の情報をサーイルに知らせていたとみられる。


彼らが標的にしたのは、母国ザドキアの軍事独裁政権の要人だった。兄弟の属する組織の母体は、元々祖国の民主化を目指すものだった。だが度重なる弾圧を受けるうち、一部のメンバーが過激化し、民主化を妨げ民衆を苦しめる独裁政権に対しては、「民主化を早めるため」テロを手段としてでも政権を倒すべしという主張のもとに分裂した。同様の主張を持つ他国の反政府組織とも結び付いて、国際規模のテロ組織となっていた。


独裁政権が倒れた後は、自分達は一切政治には関与しない。権力を目的としない純粋に民主化の為の闘争と、この組織は自らを正当化した。地球のみならず、宇宙でも独裁政権を支援する大国のコロニーでテロを起こし、兄弟は実行犯として加わっていた。


危うく難を逃れた要人は、キースの病院から欧州のある病院に極秘で転院していた。だが、再び彼を狙った自爆テロが起き、要人は死亡した。今度は院内で患者、医師、看護師など、多くの人々が巻き込まれて亡くなった。兄が命をかけてまで阻止したことは何だったのか。惨事を知ったビルキスは激しく怒り、悔しがった。


一方、イッザはこの時の組織の犯行声明の一節「死に怖じ気づいた者に、それ以上の死を」が、要人だけでなく暗に自分に向けられた言葉だと感じた。自爆テロの実行犯が、欧州に潜伏していたサーイルの妻だったという続報に、イッザは衝撃を受けた。彼女は身重だった。夫の死による絶望あるいは復讐というより、組織に強要されたのではないかという疑念に、イッザは苛まれた。
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