宇宙の病院船(妄想)


□III
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ビルキスとハーリス(旧名イッザ・シャラフ)は、メディカル・スペースシップで宇宙に上がった。国連軍が大規模な宇宙戦役で、武力介入による戦争根絶を掲げるテロ組織を壊滅させた後も、世界を一つの連邦にしようとする勢力と、それに抗う勢力との間で、地球と宇宙とを問わず戦闘は断続的に行われていた。


ビルキスは戦闘のあった宙域とその周辺で、軍が撤退した後、機体の中に取り残されたり、或は外に投げ出されたままの負傷者がいないか確かめていった。ビルキスをサポートする医療ロボットには、機体越しに、どんなに微弱でも生存者の脳波や体温を感知する機能があった。だから損壊のひどい機体でも、慎重に一機一機確認を行った。


長兄キースから聞かされたこと、MSパイロットだった次兄アースキンが、損傷がひどかったコックピットの中でも、しばらく生存していた生体痕跡があったことが、いつもビルキスの胸にあった。


ビルキスはこのメディカル・スペースシップをイシス号と名付けた。イシスは古代エジプトの女神の名前である。キースとサーイルが爆死した現場を見てのち、この名を付けようと彼女は決めていた。


「医者に神のような力があるなんて思っている訳じゃない…ただ夫オシリスを捜し出して蘇生させようとしたイシスのように、最後まで諦めたくない。そういう意味で名付けたのよ」ビルキスはハーリスに言った。


パイロットが機体に閉じ込められていれば、ハッキングによりセキュリティを解除する。これはハーリスの役目だ。だがシステムそのものが損傷を受けて解除不能の場合は、機体の一部を切断するなどして、パイロットを救出するしかない。ハーリスは本機イシス号を自動操縦に切り替え、救出用の機材と作業ロボット・医療ロボットを積んだサブの救命艇ホルスに乗り換えて、その任務に当たった。


一つ間違えば爆発の危険も伴う。だから本機イシス号は、巻き込まれないよう距離をとって待機する。ハーリスは過去に幾度となく危険を冒してきた経験から、沈着に作業を進めていく。違うのは、過去のそれは多くの人間の命を奪う行為だったが、今は一つの命を救おうとする行動であることだった。
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