宇宙の病院船(妄想)


□V
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ハーリスとサーイルの両親は、治安警察に連行されたまま、戻って来なかった。彼らは両親の勤務先の小学校を訪ね、両親が教師の資格を剥奪されたことを、校長から知らされた。


子供に、欧米諸国の影響を過度に受け、自国の風土に根ざした文化にそぐわない、誤った教育を植え付ける恐れがあると、軍事政権の教育省から判断されたのだという。


既に政府は、教師養成の奨学金制度を廃止し、各国の教育面への援助を断っていた。今後は自国独自の基準で教師を養成すると、教育省は発表していた。


兄サーイルは、治安警察に両親への面会の申請を出したが却下された。抗議する彼は、銃を突き付けられ、お前も拘束するぞと脅された。


小さな村の中で顔を合わせる生徒の親達の態度も、以前とは違っていた。日記や壁新聞が禁じられて以来、生徒の親達の間には、あの教師に子供を任せて置けば、いつか自分の子や親達自身が、当局に目を付けられるのではないかという、不安や恐怖が広がりはじめていた。そのことを、ハーリスやサーイルに対して、はっきり口に出して言う親もいた。直接言わなくても、身内である彼らを忌避する雰囲気があった。


それでも、両親の教え子たちは、心配して兄弟に声をかけてくる者が多かった。両親が生徒たちを家に招いた折には、彼らもお茶やお菓子を配るのを手伝い、一緒に遊んだりしたから。兄弟は両親が家に招いた生徒たち全員の名前と顔を覚えていた。


母ロヤーのクラスの男子生徒ミシュアル・ハサンもその一人だった。内気でクラスでは目立たなかったが、何事もじっくり考え抜き、コツコツとやり通していく子だと、母は言っていた。ミシュアルは、先生が帰って来たら、いつかまたみんなで壁新聞を作りたいとハーリスに言うのだった。
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