宇宙の病院船(妄想)
□VI
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ロヤーの教え子ミシュアル・ハサンは、ロヤーが失踪した当時9歳だった。先生の身に何が起こったのか、ずっと考え続けていた。
子供の耳に入らぬように、大人達がどんなに用心しても、声を潜めた会話の気配がすると、先生のことではないかとミシュアルは耳をそばだててしまうのだった。そうして知ったのは、先生が夫と共に教師の資格を剥奪されたこと、治安警察に連れて行かれたらしいこと、もう生きてはいないかもしれないこと…彼の心は痛んだ。
ミシュアルは、禁じられてしまった壁新聞をもう一度作りたいという思いも、変わらず抱き続けていた。だが一度家でその願いを口にした時、父親のニザームは、表情を強張らせ、二度とその話をするなと叱りつけた。
父親が治安警察を恐れていることは、ミシュアルにもわかっていた。それきり彼は家でも学校でも先生や壁新聞のことには触れなくなり、2年以上が経った。それでも抱いてしまった疑問は消せず、何とか誰かに伝えたいという気持ちを抑え続けることはできなかった。
もうすぐ12歳になるミシュアルは、一人で、密かに壁新聞の紙面をつくりはじめた。少しでもお金を家に入れたいからと親の許しを得て、週に3日学校を休んで国軍の幹部が経営する大規模な綿花の農園で働きだした。賃金の中から少しずつ資金を貯めた。