宇宙の病院船(妄想)


□VIII
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時間はやや遡り、再び地上に戻る。
ニザーム・ハサンが、自らの罪を明らかにするため、欧米メディアの支局に連れて行って欲しいとルトフに頼んだ時、ルトフはふと頭をよぎるものがあったが、まさかと打ち消し、ニザームに忠告した。


「欧米系の大手メディアには頼らない方がいい。それだけで、政府から、あなたの喋ったことがでっち上げだと決めつけられる恐れがあります」


ルトフは続けた。
「ご存じとは思いますが、こちらの人間は、向こうの報道を必ずしも信頼している訳ではありません。向こうの価値観だけでこちらを見ていると、反感を持つ者も多いのです」


アル・マタルの支局へ行こうと勧めたのはルトフだった。アル・マタルは、例えばザドキアなら、軍事政権の要人、反政府ゲリラ組織幹部、更にはハーリス達の属していたテロ組織幹部と、紛争の当事者のいずれにも取材し、それぞれの言い分を、中立に徹する立場で伝えることで知られていた。また、一般市民への取材では、放送時は顔を隠し、声を変えることで、本音を引き出し、多様な意見を伝えることに成功していた。

こうした姿勢は、どの国で起きた反政府デモや戦闘、テロの報道でも一貫していた。デモのさなかに兵士に暴行を受ける市民も、逆に暴徒化する民衆も等しくカメラに写し出す。国軍、ゲリラ双方の戦闘の犠牲者を報じ、テロによる政府の要人の死と、巻き添えになった人々について伝える一方で、当局に逮捕されたテロリストへの拷問の実態を、潜入取材で暴露したりもした。


アル・マタルのニュース番組では、報道した大きな事件について、歴史的な背景や、原因となった根本的な問題、関係する各国の思惑など、客観性を重視した徹底的な解説の時間が取られていた。またこれらの問題について、ジャーナリストや各種シンクタンクのメンバー、大学教授などの識者、政治家まで招いて、多様な立場から討論する番組も放送されていた。ラジオ及びネット版でも、同じ内容が配信された。それは、ザドキアの国営放送とはかなり様相が異なるものだった。
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