宇宙の病院船(妄想)


□IX
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アル・マタルのザドキア特派員、スハイム・アーキルは、治安警察に連行されたラシードとロヤーのその後について手掛かりを探していた。そんな時、ザドキアの首都アシュラフで市民達がデモを始めようとしているという情報が入った。クーデター以来、軍事政権の中枢である国家評議会本部は、元の大統領官邸に置かれていたが、その前の広場に人々が集まっているらしい。アーキルはカメラマンと共に現場へと急いだ。デモはニザーム・ハサンがアル・マタルの放送を通じて、自らの密告を明らかにしたことを受けてのものだという。


アーキル記者が評議会本部前に着いた時、集まってきた人々の数は100人にも満たなかった。まだ声を上げる者はなく、異様なほど静かだった。人々は緊張した表情で、一人一人が、どこから入手したのか、自分の意志を表す手旗のように、ミシュアルが作った小さな「号外」新聞のコピーを掲げていた。


集まった人々の姿を見て、市街を往き来していた市民達は足を止め、デモを取り巻くようにして見守った。中にはデモの意図を察したかの様子で、新たに加わる者もいた。そうした参加者に、一人の若い女性がミシュアルの新聞を手渡していった。


最初に声を上げたのは、ミシュアルの新聞を人々に配っていたその女性だった。まだ少女のような面差しだったが、意外なほど腹の座った態度で、評議会本部の建物の窓を見据えて、よく通る声を張り上げ、中にいる筈の要人達に呼び掛けた。


「私達はもう恐怖に囚われて同胞を、隣人を、国に売ったりしない。沈黙もしない。ニザームは自身の罪を明らかにし、事実を語った。私達は過ちは自分自身で正す。今度は政府が真相を明らかにする番だ。ミシュアルの先生はどこに?」
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