宇宙の病院船(妄想)


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ハーリスは、イシス号のモニター室で、地上からレイチェルが送信してきたニュース映像を食い入るように見詰めていた。伝えられているのはザドキアの現政権に対する初の反政府デモと、それに対する政府軍の攻撃だった。



近づく爆音に、空を見上げる人々。画面が急に暗くなり、続く爆発音、揺れる画面、衝撃音。画面は更に激しく揺れた。交錯する叫び声、悲鳴。マイクを通して誰かが呼び掛ける声。その中で報道するアル・マタルの記者の、やや早口で時に息を詰まらせながらも、極力感情を抑えた声。


政権側がデモに加えた攻撃は、正面から兵士達を対峙させての銃撃ではなく、ヘリオン3機による空爆だった。約100名の人間を爆撃で一気に殲滅しようとしたのである。だが、ハーリスを含めこの映像を見た人間にショックを与えたのは、虐殺の場面ではなかった。飛来したヘリオンを、何物かが撃墜したのである。


ヘリオン飛来の数分前、ティエレンの小部隊9機が現れ、デモを遠巻きにしていた市民を威嚇するように長滑腔砲を向けた。こうした威嚇行為は現軍事政権のトップの名を取って、「ヘイダルの警告」と密かに呼ばれていた。単なる威嚇ではなく、間髪を入れず容赦無い攻撃が始まるのが常だった。市民達はそれを察知して、四散して逃げはじめた。ホバリングで機敏に移動するティエレンは、追われる者の恐怖感を増幅した。部隊のうち6機がそのままデモの人々に向かって高速で接近した。人々には逃げる暇もなく巨体で囲い込まれた。


他の3機は周囲を警戒していた。いずれも軍事政権が人革連から買い受けた防塵仕様の高機動型だ。砂漠地帯対応のサンドベージュの塗装。通常は銃身にカーボンブレードを装備しているが、この部隊は一般の陸上型と同じカーボンブレードまで携えていた。逃げ出そうとする者の道を塞ぐつもりなのか。6機のうち3機が左足のシールドをパージして、人々の前面と左右に壁を築いた。人々の中には蒼ざめ、震えている者もいたが、恐怖で取り乱す者はいなかった。彼らは互いに身体を寄せ合い、自分達を見下ろすティエレンのモノアイに向けて、黙って次々とミシュアルの新聞を掲げて見せた。
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