宇宙の病院船(妄想)


□X
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ヘリオンが飛来したのはその直後だった。瞬時に1機が迎撃され、人気の絶えた市街地とデモの人々がいる評議会本部前広場との境目付近で墜落、爆発した。


人々が浴びる筈の、爆風と機体の破片を受け止めたのは、6機のティエレンだった。激しい衝撃と振動、爆音に人々は一瞬混乱に陥った。だが上空が暗くなって直ぐに気付いた。ティエレンの巨体がスクラムを組んで自分達を庇っていた。


1機はヘリオンの墜落する方向に向きを変え、立て膝の体勢になり左足のシールドを盾に爆風を正面から受けていた。2機がその両脇を固め、シールドをパージした3機はやや後ろに下がって腰を落とし、足の関節部分に破片が衝突するのを避けつつ、人々を囲んでいる。頭上には5機のカーボンブレードが重なり合い、飛散する破片を防いでいた。その内側には先刻築かれたシールドの壁。二重の防護だった。


残る2機のヘリオンは散開して爆撃を遂行しようとしたが、射程外から飛んで来た砲弾に更に1機が撃墜された。その間隙に前面にいたティエレンが人々の方に向き直った。呼び掛ける男の声がした。

「我々は、現政権に反対して国軍から離脱した者です。脱出のためのトレーラーを用意しています。我々があなた方を防護します。落ち着いて行動して下さい」


それでも人々の間には、一瞬信じて良いものかという戸惑った空気が流れた。国軍にせよ、治安部隊にせよ、警察にせよ、国家の命を帯びた存在は、生死の境目に手を差し伸べられてなお、人々にとって抜きがたい恐怖を感じさせるものだった。


ティエレンに庇われたとはいえ、機体の間をすり抜けて飛んで来た破片で負傷した者がざっと見て十数人いた。ミシュアルの新聞を配り、デモの先頭に立って声を上げた少女のような面差しの女は、微細な破片がほんの僅かに頭を掠め、頭皮が切れてかなり出血していた。彼女は素早くスカーフを頭にきつく巻き付けながら、皆に叫んだ。

「あのティエレンに乗っているのは、私の夫です! 名はルトフ・リドワーン。ミシュアルの遺体をあの子の両親の元に連れ帰ったのは夫なんです。どうか信じて共に行動して下さい!」



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初出・2012/12/15 フォレストブログ
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