宇宙の病院船(妄想)


□XII
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ダハールはザドキアの北西に位置する隣国である。だが首都アシュラフの西側に連なるイマード山脈が障壁となり、ルトフ達は今の地点からすぐに国境へ近付くことはできなかった。



北東から南西方向へ約150kmに渡って続くこの山脈は標高2000〜3000mに及び、山麓はアシュラフの北側まで伸びていた。このためルトフ達は、山麓を迂回して首都から約100km離れた砂漠地帯まで出た後、ダハールとの国境へと北上するルートを取った。障害物が少なく高速で走行できることと、市街地を通過して戦闘になった場合の被害を考えての選択だった。ただ発見されれば身を隠す処はない。


軍からの離反を企てるにあたり、ルトフはイマード山脈に潜伏する反政府ゲリラ組織に連絡をとり、彼らと共闘の意思があることを伝えていた。ゲリラ側も共闘に同意した。ゲリラには国軍の他、治安部隊出身者もいた。兵士達だけならこのままゲリラの潜む山岳地帯で合流すれば良かったが、今は保護した人々を出国させねばならない。ルトフは暗号通信でゲリラ組織の幹部の一人であるバドル・ラウダという男に、援護を要請した。折り返し了解の旨通信がきた。政府側の解読を警戒したのか、それ以外の応答は一切なかった。


不安を感じている暇はなかった。短時間で追っ手をできるだけ引き離すため、山裾を辿り平坦な草原地帯から更に砂漠へと、ティエレン部隊は疾走した。ダハールの首長が入国を許可した国境の町ネシャートまで約377km。高機動型の最高時速は300kmだが、いくら障害物が少ないといっても、ザドキアの砂漠は砂丘による起伏が多い。多数の人間が乗るコンテナを安全に運ぼうとすれば、ある程度は速力を落とさざるを得ず、約1時間半は必要だ。その間国軍に追い付かれれば、防戦し続けながら逃げなければならない。
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