宇宙の病院船(妄想)


□XIII
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ティエレン対空型の操縦士が、再びルトフに通信してきた。
「こちらは‘ツーウェイ01’ザキー・ヘサームだ。バドル・ラウダから通信があった」
‘ツーウェイ’はティエレン対空型の通称である。
「政府軍はネシャート付近の国境線からちょうど10キロの地帯に、周辺の兵力を集結させている。事実上の国境封鎖だ」


「こちらはルトフ・リドワーン。ダハール首長から直接ヘイダル議長に働きかけるよう、アル・マタルの記者に要請する。今はそれしか方策がない」
「ヘイダルは」
そのまま続けようとしたザキーの言葉が、ほんの一瞬途切れた。


「…民間人の出国は認めても、軍人の越境は許さないだろう。コンテナ内には兵士がいるな? 国境の検問で連行される破目になる前に、中の兵は全員ここで降ろせ。我々から物資の調達を請け負っている部族が間もなくジープでこちらへ来る。彼らに紛れて山へ向かい、我々の軍と合流させるんだ。」
「わかった。彼らにはすぐに指示を出す」
「市民を出国させた後、我々も、生き延びなければならない。国境周辺に潜伏する我が軍も援護に動く」
「重ねての救援、感謝する」
「何かあればまた連絡する」
ルトフは会話の途中で頭の隅を占めはじめた疑問を確かめようとして、急き込んで訊いた。
「君は、国軍ではどの隊に?」
だが既に通信は切れていた。


続いて通信してきたのはアーキル記者だった。
「今アル・マタルの主幹から連絡があった。ダハール首長ジアー・マスウード殿下が、ホットラインを通じて、直接ヘイダル議長に対し人々の出国を認めるよう交渉を始めたそうだ」
「今ザキー・ヘサームから政府軍が国境の封鎖に動いているようだと伝えてきました。多分それを受けてのことでしょう。市民の出国が認められるよう祈ります。我々は国境周辺のゲリラ軍と連絡を取りつつ、国境へ向かいます。国境線から10キロまでは、ダハールとの条約で両国共に軍事行動を禁じられた緩衝地帯です。油断はできませんが、そこへ入る方がまだしも人々にとって安全だと思います」
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