宇宙の病院船(妄想)


□XIII
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そうしたやりとりの間にも、コンテナの中では、兵士達が人々に水を配り、用を足したくなった人をいくつかの個室式簡易トイレへ案内していた。ヘリオンとの戦闘で機体を破壊された2機の操縦士達も、束の間の休息を取っていた。コンテナ内には空調設備があるが、114名もの人間が詰め込まれているために、気温は30℃近かった。


「狭いところでずっと座りっぱなしだと、血栓ができて命に関わることもあります。水分はしっかりとって下さい。今のうちに立って足を動かし、身体をほぐしておいて下さい。…こんなふうに」
兵士の一人がストレッチをやって見せながら、人々に呼び掛けている。そこへ、ルトフからコンテナ離脱の指令が伝えられ、兵士達と人々の双方に緊張と動揺が走った。


兵士の幾人かは、人々を残してコンテナを離れることに強い抵抗を示した。コンテナの開閉は外のティエレンからも操作可能にしてあり、内部の様子もルトフ達のヘルメットのディスプレイに映し出せるようになっている。だが負傷者や高齢者を残して、自分達だけが全員離脱することはできないと、人々に付き添ってきた兵士達はいうのである。ルトフは説得しようとしたが、押し問答になった。彼らは衣服を変え、武器を隠し持ち、民間人のふりをしてコンテナに潜むという案さえ出してきた。


「怪我をした人達は、私が看ます。看護の心得があります。他にも世話のできる人はいますから、その人達と一緒に」
ラナーが言った。
「何かあれば、私からリドワーンに連絡をとって対処する。君達は既に犠牲を払っているんだ。今はできるだけ兵力を温存した方がいい」
アーキル記者も口を添えた。
「もう十分…十分よ」ラナーの前にいた老婦人が思い余ったように言った。
「私達は大丈夫。今までありがとう。どうか、命を大切にして。お願いです…」
「ここまで助けてもらって言いにくいことだが」
一人の男性が冷静に言った。
「軍人が民間人の中に紛れていることを察知された場合、ヘイダルはコンテナ攻撃の口実にしないだろうか? 奴ならやりかねないと思うが」
兵士達はさすがに返答に詰まった。
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