宇宙の病院船(妄想)


□XIV
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「我々が攻撃したのは、離反したティエレン部隊です。彼らは反乱軍ですから当然鎮圧しなければなりません。デモの市民を直接狙った訳ではありません」
執務室でモニターの向こうのジアー・マスウードと対面しながら、ザドキア国家評議会議長アドリー・ヘイダルは落ち着いた口調で言った。


「もっとも、市民達も政治的集会を禁じた我が国の法に背いたのですから、本来なら拘束され罰せられるべきです。貴国と違いそうしなければ我が国の秩序は維持できないのです、殿下」


「アル・マタルの記者が送って来た映像と報道から」
ダハール首長ジアー・マスウードは言った。
「離脱兵士達は最初からデモの市民を空爆から守るのを目的に行動を起こしたことは明らかです。あなたの国の内政に干渉する意図はないが、市民を保護した兵士達が、人々を政治的難民として受け入れて欲しいと訴えてきた以上、黙って見過ごすことはできません。ダハールは異論を持つ者が自国において生きる権利、言論の自由を認める国だからです。あなたは軍に国境を封鎖させた。彼らの出国を許さないつもりですか?」
マスウードは物柔らかな言い方ながら、ザドキアとは国家の原則が違い、それは譲れないものだということを暗に強調した。


こうした交渉の場で、ダハールがザドキアに与えてきた経済的な援助や、この件で軍事政権が国際社会から被るであろう非難や孤立を持ち出しても、ヘイダルという男は動じない。彼は彼自身の原則を曲げることは決してしない。そのことを、マスウードはヘイダルが政権を奪取してからの付き合いの中でよく理解していた。


「市民の出国は認めましょう」
ヘイダルはあっさりと言った。
「彼らは生涯殿下の国にお世話になることと思いますが。だが、」
眼光が鋭さを増した。
「あの兵達に国境を越えさせる訳にはいかない。目的がどうあれ、武力を以て国家の秩序を乱した者を許すことはできない。武力は、秩序を取り戻すために行使するものです。私はそのように武力を使ってきた。だが、彼らはザドキアを内乱に巻き込もうとしている。離脱兵士はザドキア国内から一歩も出さず殲滅します。たとえ投降者が出ても生かしてはおきません。それが、市民を出国させる唯一の条件です。譲歩の余地はありません」
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