宇宙の病院船(妄想)


□XIV
2ページ/5ページ

マスウードはしばらく沈思したが、意を決して口を開いた。
「わかりました。私から直接離脱兵士のリーダーに話をしましょう」
「随分とあの兵士達にお心を寄せられているご様子ですね」
ヘイダルは、皮肉を言っているのではなかった。微笑もせず、光の強い眼差しで、モニター越しのマスウードの眼を射るように見詰めた。マスウードが単独で離反兵士と接触を持てば、窮地を脱する何らかの策を彼らに教唆するのではないかと懸念し、牽制するようでもあった。


「我が国の反乱者のために、殿下がそこまでの労を取られる必要は無いでしょう。市民の出国の条件を提示するなら、アル・マタルを使えば済む話ではありませんか? 離反兵士に対し、放送を通じて殿下と私とが共同で通告することで、我々の姿勢は彼らにも、ひいては両国の国民にも、国際社会にも伝わるでしょう」


「“我々”の? あなたと私の意思は全く同じではないと思うが。それにあなたが心中危ぶんでいるようなことを、離反兵士に言うつもりはありません。私が彼らに伝えたいのは、あくまでも市民の生命を第一に考えて欲しいということと、今一つは国境周辺で武力を用いて、両国の市民に被害を及ぼさないで欲しい、この2点に尽きます。彼らにとってはむしろ酷な要求でしょう。生き延びることを諦めろというのも同然なのだから。…アル・マタルでの通告には同意しましょう。だが、彼らは私を名指しで市民の救済を求めてきた。私には彼らに直接応え、彼らを納得させる義務がある。彼らとの会話の内容を知るのがお望みなら、小型マイクを仕込んで臨みますよ」


ヘイダルは黙ってマスウードを見詰めている。
(皮肉だと思っているのか)
マスウードは更にたたみかけるように続けた。
「私が離脱兵士に話すこととも関わりますが、あなたにもこちらの条件を容れて頂きたい。貴国と我が国との間の基本条約に基づくものです」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ