宇宙の病院船(妄想)


□〈2〉
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アドリーの、イスハーク少将の援助を断って欲しいという言葉に両親は驚き、なぜ今更そんなことを言い出すのかと彼を問い詰めた。両親はアドリーが将来士官になることを期待していた。今の暮らしの厳しさも、そのために辛抱しようと決めていた彼らには、息子が学業を途中で投げ出そうとしているようにしか見えなかった。息子が働きながら夜学に通うと言っても、怒りで聞く耳を持たなかった。


アドリーは最初本当の理由を言わなかった。心の底で、それを口にした時の両親の反応を見たくないと思っていた。両親の日常を目にしていて、彼には予想がついていたから。けれど父親の「お前は、恩知らずだ。少将にも、自分の親にも」という言葉が耳に入った瞬間、アドリーはかっとなった。


「役人に賄賂を渡さなかった親が失業して、学校に行けなくなった子がいるんだ。賄賂を取ってる軍人の援助で学校に通うなんてできないよ!」
父親はアドリーの左頬を殴りつけた。アドリーはよろけたが、辛うじて倒れず身体を支えた。
「子供が、偉そうな口を利くな。世の中を批判したかったら、自分で底の底、裏の裏まで世の中を知って、それを根こそぎ変える力をつけてからにしろ。もっともそんな大人になれた人間を、俺は見たことがないがな。お前にできるか? 力がなければ世間の習いに従うことも必要だ。生きていくためにはな」
それから少し顔を背けて言った。
「そうできない者は、気の毒だが世の中から剥がれ落ちていくしかない」
アドリーは父親の顔を睨み付けた。やっぱりそうだ。そう言うと思ってたんだ。


「少将はお前に期待して、バシールの分まで援助して下さっている。お前が学校を止めれば、そこで縁は切れるだろう。お前は自分の身勝手で、兄まで犠牲にするつもりか?」
アドリーは黙り込んだ。悔しさと憤りの籠った眼で、父親の眼を睨み返した。
「援助を断ることは許さん。頭を冷やして、現実をよく見ることだ」
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