宇宙の病院船(妄想)


□〈4〉
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ダハール総合軍事学校に入学して間もなく、レザーが寮のアドリーの部屋まで訪ねて来た時、彼は心の中でレザーに対して身構えた。


(世襲将校が…何故わざわざこんな所まで来た?)
ダハールと違い、自らの能力とは無関係に親の地位と権益をほぼ受け継ぐザドキア軍将校の息子達を、アドリーは侮蔑を込めて密かに「世襲将校」と呼んでいた。


「挨拶もそこそこで済まない。もっと早く君に会いたかったんだが、ダハールに来てからどうしても探し出せなかった。話があるんだ…」


アギフの家出の顛末を聞くうち、アドリーの瞳の奥の表情が沈み込んでいくのが、レザーにはわかった。



「もう遅いから僕がアギフを捜しますよ。家に戻って待っていて下さい。」
アギフの母親から事情を聞いたレザーはそう言って彼女を帰らせた。ヤフヤ・イスハークは軍の会議でまだ帰宅していなかった。レザーは父親の書斎へ入ると、児童を雇う事業主がファイルしている子供の身元書類の中からアギフの写真を取り出し、彼女を探しに出た。近隣で聞き込みをすると、市街地に向かうアギフを見た者がいた。


(あの時も、こんなふうに探し回ったのだった)
市街へ向かうレザーの表情は険しかった。当時ザドキア各地で子供の失踪が頻発していた。あの時というのは、約半年前イスハーク綿花農園で働いていた少年が、休日の間に突然行方不明になった事件当時のことである。ザドキアの警察は動きが鈍く、少年の安否は未だにわからなかった。同様に十分な捜索もされず消息不明のままの子供達が数多くいた。


レザーは、街を尋ね歩くうち、路地の奥の音楽や映像ディスクを扱う店に辿り着いた。その店の地下では、ザドキアでの上映はもちろんディスクの所持も禁じられた作品を密かに見せてくれるという噂だった。
1階にいた店主に、
「この子の雇い主の家の者だ。親に頼まれて迎えに来た」
と言って少女の写真を見せ、誘拐と疑われないよう自分の身分証を見せた。店主はすぐさま先に立って狭い階段を降り、ドアの鍵を開けた。ザドキア南部で、イスハーク家の綿花農園を知らない者はまずいなかったし、当主の息子の顔を見知っている者も多かった。
「地階の奥は通り抜けで裏通りに出られる。帰りはそこからにしてくれ」
店主は用心深く言った。
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