宇宙の病院船(妄想)


□〈5〉
1ページ/4ページ

それから数ヶ月の間、アドリーとレザーは、講義で顔を合わせても、挨拶を交わす以外はほとんど話すこともなく、それぞれ自分のやるべきことに専念した。授業と教練で彼らの日課はびっしりと埋まっており、アドリーはその間を縫ってアルバイトをした(いつの間にか彼はダハール軍基地で夕食後の皿洗いまでやるようになっていた)。


レザーは、従姉のサルマーにアギフの勉強の進み具合をメールで送らせ、アギフが躓きそうになっている問題があると解決法を考え、サルマーにその都度返信した。夏の休暇中に自分が教える時の計画を立てては、自分で教材ノートを作ったり、ジャバード(ダハールの首都)の大型書店で子供向けの参考書を探したりした。


14歳まで学校に行ったことがなかったアギフは、早く追い付こうという焦りもあるためか、相当苦労しているようだった。ダハールには、国の内外で学校に行けない子供達に勉強を教える民間団体もあったから、レザーは自分で解決方法が見つからない時は、そこの人々に助言を求めてサルマーに連絡することもあった。サルマーの携帯にアギフへのメッセージを送って伝えて貰ったり、時には直接電話で、アギフを励ましたりもした。
「今習うことを、一つ一つきちんと覚えていけば大丈夫だよ。焦って中途半端に覚えると、後が大変だからね。夏休みには僕も帰って応援するから…いつも言うけど、あまり思い詰めなくていいんだよ。」


アドリーは兄バシールを通じて、アギフの様子を尋ねたり、言伝てをすると話していたから、レザーはそれ以上干渉はしないようにしていた。


本当は、互いに忙しいだけが理由で話さないのではないことは、レザーにはわかっていた。再会した当初、アギフのことを聞いた上で、アドリーははっきり言ったのだ。軍に入ったら、君とは一度戦う必要があると。
(でも、アギフのことでもう一つ話しておかないといけないことがある。今がその時期だ…)
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ