宇宙の病院船(妄想)


□〈5〉
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レザーがアドリーに声をかけたのは、ジアー・マスウードが戦線へ赴いて3週間ほど経った日のことだった。


「アギフが家出した時見ていた映画を、今度全編観てみないか? 僕も一場面を見ただけだから、ずっと気になっていたんだ。ジャバードの映像ライブラリーで、手続きをすれば観られる。君はこの間18歳になったんだろう? 手続きの時は学生証で年齢を確認した上でないと視聴許可が出ないんだ。そういう映画を彼女は観ていたんだよ。何を思って見ていたか…少しでも知りたくないかい?」
「ああ…行こう」
アドリーは短く応えて頷いた。


翌日レザーとアドリーは、軍事学校の講義が終わった後、ライブラリーへ行きその映画を観た。見終わった後、彼らは黙り込んだまま、苦行の後のような表情をして、ライブラリーを出た。


映画は約3世紀前につくられたもので、16世紀のヴェネチアに実在した高級娼婦の生涯の物語だった。アギフが、その職につかなければ図書館にも入れなかったと言ったのは、その女性のことだったのである。


先に口を開いたのはアドリーだった。話しはじめたのは、映画とは全く別のことだった。
「君の農園で働いていた子が行方不明になったと前に話していたな」
どこか激しい感情を堪えているような表情だったが、口調は意外なほど冷静だった。
「ああ…だからアギフがいなくなった時もしかしたらと思ったんだ。」
レザーは答えた。
「農園で働いていた頃、帰りに知らない男が寄って来て、自分が紹介するところで働けば、今より高い賃金で、しかも学校にも通えるようにしてやると勧誘されたことがある。その場で断って、すぐに君の父上に知らせたがな。女の子も何人か勧誘されたらしい。父上が夕方屋敷の近辺を見回らせるようにしたら、奴らは少なくともその辺りからは姿を消した。」


(そう言えば、学校へ行くのをイスハーク少将から勧められたのは、それから間もなくだった。今考えると、子飼いにする将来の兵士を横取りされたくなかったのかもしれない)
アドリーは今になって思い当たった。
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