宇宙の病院船(妄想)


□〈6〉
1ページ/8ページ

4年間、アドリーとレザーはダハール総合軍事学校での学業と教練に明け暮れた。卒業の年を迎えても、太陽光発電紛争は未だ終結の気配すらなかった。


ダハールは反太陽光発電勢力の攻撃を退ける一方、反対国が太陽光発電を受け入れるよう、公式或いは水面下での外交交渉を幾度も試みたが、強硬な姿勢を変えない各国を説得する糸口を見出だせずにいた。ジアー・マスウードは、クセルキスタン国境でのテロリスト掃討作戦を遂行した後も、断続的に紛争やテロが勃発する周辺国を転戦し、教壇に復帰することはできなかった。


ダハール総合軍事学校では、当時の中東諸国での汎用機だった人革連製のアンフ操縦は必須の課程だった。また、搭乗資格認定試験に合格すれば、ユニオンリアルドなど当時の最新鋭の機体での教練を受けることもきた。ダハールはユニオンの系列国ではなかったが、太陽光発電計画参加に伴う軍備増強に伴い、リアルドを制式採用していたのである。


MSパイロットの候補生達が搭乗するリアルドが、両拳を前方に突き出した独特の姿で上空を飛び交うのを、アドリーとレザーは日常的に目にした。


彼らは陸軍士官の候補生だったが、申し込めば他の軍種の教練の見学は自由だったから、リアルドの飛行訓練や工兵科の学生による飛行形態への換装実習を見学に行き、ダハール軍の教官から説明を受けた。


ザドキアが軍政になって以後、ユニオンとAEUは兵器の輸出を禁じている。このためザドキアでは人革連製の機体しか配備できず、本国でユニオン製の機体に接する機会は皆無だった。アドリー達は世界の最先端をゆくユニオンの兵器の知識を、貪欲に吸収した。


アドリーとレザーは陸軍の教練でリアルドホバータンクを操縦した。下部をホバークラフト化した機体は、重心の低い、戦車のような外見からは想像のつかない機動性を備えていた。


彼らとしては、自ら操縦しながらも、ユニオン製の機体は仮想敵機として考えざるを得ない。支援機とはいえ、リアルドホバータンクの優れた機動性と、搭載されたリニアライフルの速射・連射能力やロケットランチャーの威力に直接触れて、彼らはアンフとの歴然とした差を肌で感じた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ