宇宙の病院船(妄想)


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戦闘用モビルスーツは、軌道エレベーター建設に使われたワークローダーから発展したもので、太陽光発電紛争を契機にめざましい進化を遂げた。特にアドリー達がダハールで学んだ時期は、モビルスーツ開発にとっての一つの画期で、リアルドに次いで2292年にはヘリオン最初期型のイニティウムもAEUに制式採用された。人革連も近々ファントンに代わる新型モビルスーツを配備するという情報が流れており、ダハールは太陽光発電紛争で想定されるあらゆる戦況に対応するため、既にこれらAEUや人革連の新型を購入する予算を組んでいた。


ダハール自体は、三大陣営のいずれとも同盟関係は結ばず、各々と一定の距離を置きつつ独自の路線を歩んでいた。太陽光発電を推進するのはあくまで中東再建のためだった。


ダハールは自力で石油依存を脱却した国でありながら、国連では石油輸出規制に反対の立場をとった。太陽光発電に転換する力の無い国々を支援する国際的なセーフティーネットの無いまま規制を実施するのは、それらの国々を切り捨て、多くの人々を困窮させるからというのがその理由だった。今の太陽光発電推進のやり方では、富める国が恩恵を受けるだけだと痛烈に批判し、ユニオンやAEU、人革連の代表達を度々閉口させた。


一方でダハールはAEUの軌道エレベーター「ラ・トゥール」建設に参加し、巨額の資金を拠出、技術者から現場労働者、更には反対勢力から防衛するための軍隊まで派遣していた。建設中の「ラ・トゥール」が攻撃された際には、民間人・軍人を含め数十名の犠牲者まで出している。そうした経緯もあって三大陣営も、ダハールに対しあまり反発を露(あらわ)にすることはできなかった。


三大陣営がダハールへの兵器輸出を認めたのは、紛争を鎮め、太陽光発電を推し進めるためには、ダハールの軍事力と外交力、経済力が無視できなかったからである。ダハールが太陽光紛争に介入している地域では、三大陣営は自らの兵と兵器を消耗させずに済み、またダハールは大国群の干渉を排除する領域を確保できた。ダハールがめざすのは、異なる政治体制や宗教的立場を内包しつつも、中東全体の復興を目的とした独自の共同体の設立だった。
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