宇宙の病院船(妄想)


□〈8〉
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ジアー・マスウードは、アフリカ・ヴィクトリア湖西方に建設中のAEUの軌道エレベーター「ラ・トゥール」の防衛のため、アフリカ諸国とダハールの連合軍の指揮に当たっていた。


「ラ・トゥール」の建設地域は、北方のスーダン・南スーダン国境地帯にアフリカ有数の油田地帯を抱えている。中東とやや事情は異なるが、軌道エレベーターの足下で太陽光発電反対勢力は根を張っており、現場は絶えず襲撃の危険に曝されていた。


中東と異なる事情とは、アフリカではほぼ全ての国が、かなりの曲折はあったものの太陽光発電への転換を受け入れ、軌道エレベーターの防衛まで担ったことである。そこに至る過程に、ダハールが深く関わっていた。


アドリーの行方から話が離れるが、ここでこの「アフリカの事情」についてしばらく述べる。


20世紀後半から21世紀にかけて大虐殺を伴う内戦や国家間の紛争を経験し、その後の経済成長期の中で貧富の差の広がりが深刻な問題となったアフリカ諸国は、20世紀初頭に発足したアフリカ連合(AU)を、22世紀後半にNAU(Neo African Union=新アフリカ連合)と改め、紛争防止と各国の相互扶助による経済格差解消を、明確な目標として連合規約の条文に掲げていた。


欧州へのエネルギー供給地としてアフリカに白羽の矢が立った時、NAUは太陽光発電への転換を受け入れる代わりに、経過措置としてアフリカ諸国間限定での石油禁輸措置の緩和を国連に強く求めた。石油産出国は協議して価格を値下げした上で非産油国に輸出し、双方の窮乏を防ぐ。経済成長国を中心に各国の経済状況に応じた協同出資により、太陽光発電のインフラ整備を行うというのがNAUの当初の構想であった。


だが、アフリカへの規制緩和を認めれば、中東諸国も同様の主張を始めかねず、地球温暖化防止のための二酸化炭素排出抑制に影響を及ぼすことを危惧したAEUはじめユニオン、人革連の三大陣営は結束してこの要求を拒否した。
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