宇宙の病院船(妄想)


□〈9〉
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「〈ザフラー〉は何と報告してきた?」
ジアーが呼んだのはエージェントのコードネームである。


「アドリー・ヘイダル本人に関しては、今のところ何の情報も得られなかったと…ただ、全球での訓練で同室だった学生サーシャ・ゲルツェンも地上に帰還しておらず、彼について調査した結果、ヘイダルの失踪に関わっている可能性があると報告してきました」


「ゲルツェンについてわかっていることは?」
「人革連軍事アカデミーを今年卒業後、周辺国での対テロ活動を目的として編成された特殊部隊に配属されるべく、全球での訓練を受けていました。全球に上がる少し前から、リディア・アウバキロワという女性と交際していましたが、この女性が…」
ナーセルは言葉を切り微妙な表情をした。
「続けなさい」
ジアーに促されて、ナーセルは一礼した。


「リディア・アウバキロワは当初サーシャの父マルク・ゲルツェンと深い関係にあったようです。しかも彼女は偽名を使っていました。リディアはカザフスタン出身ですが、そのことも隠してマルク・ゲルツェンと親密になったと思われます。マルクの妻は6年前に亡くなっており、二人は再婚を前提に交際しているようです。…しかし、息子のサーシャはリディアの本名も出身も知り、父との関係も承知した上で、彼女と交際していたようなのです。リディアに接近した<ザフラー>は、彼女がロックして保存していたサーシャとのメールを調べてこのことを知りました。これらのメールは携帯端末を一時ロック解除の上コピーして報告に添付しています」


「リディアがマルク・ゲルツェンに近づいた目的は?」
「ロシア系のリディアは、約半年前にカザフスタンから内戦を逃れて来たそうです。カザフスタン領内で市街戦に巻き込まれ避難の途上、5歳の息子とはぐれたのですが、彼女は、戦闘の混乱の中息子が何者かに拉致されるのを目撃したと、親戚や知人に言っていたそうです。その直後、彼女の夫でカザフ系のブラートが、カザフ系武装組織から、ロシア系武装勢力と戦うため組織に加わるよう強要されたのを拒否して、無理矢理連れ去られてしまったのです。その後ブラートは遺体で発見されたといいます。…」
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