宇宙の病院船(妄想)
□〈10〉
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最初の尋問が終わりアドリーが拘束室に戻された時には、室内の温度はかなり上がっていた。自殺防止のため四肢を束縛され、口腔を封じられて、ベッドに横たえられた彼は、2時間後に迫る次の尋問を切り抜ける方法はないかと必死で考え続けた。
(奴らに自分から話す気はない。そうなれば自白剤は避けられまい。だがしばらくの間耐えられたとしても、投与量を増やされればどこまで身体がもつか)
サーシャ・ゲルツェンは自ら命を絶ったと防諜局の男は言ったが、致死量に達するまで自白剤を投与されたのかもしれないと、アドリーは考えた。
(これ以上考えても、出口は見つからない。逃れる術はないのだ…ならば今は少しでも頭と身体を休めるか…少しでも長く、耐えられるように。)
やがてアドリーは浅く、短く、息苦しい眠りに落ちた。幾つもの生々しい夢が、疲労し切った彼を波のように見舞った。
尋問官との不毛なやりとりが、現実で起こった通りに繰り返された。アドリーが、サーシャ・ゲルツェン個人についての事情は聞いたことがないと何度繰り返しても、尋問官は執拗なまでにその質問から離れようとはしなかった。
―彼と話したのは、訓練に関することだけです。彼は自分のことについては何も話しませんでした。
―彼自身のことでなくとも、彼の知人や家族のことは話さなかったのかね?
―話しませんでした。
―君には出身や家族について聞いたのに?
―そうです。
―不自然な話だな。君からは尋ねなかったのかね?
―尋ねませんでした。彼の個人的な事柄に関心はありませんから。
アドリーの冷静な答えに、尋問官は穏やかに微笑した。