宇宙の病院船(妄想)


□〈13〉
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次の日、アドリーは不安で胸が波立つのを覚えながら、農園の門を入った。


イスハーク夫人は明日から、ハナンのことも、他の子供たちのことも考えると言ってくれたけど、ほんとうのところ、昨日の今日で彼らに朝食を食べさせることなどできるものだろうか?農園に雇われている子供は約30人。そのうち朝食を食べていない子供は、アドリーの見聞きした範囲だけでも、3分の1くらいは占めていそうな感触だった。いくらイスハーク家でも、毎日のこととなれば金もかかるのだ。夫人の考えだけでそれが通るものだろうか?


あの時のライハーネの表情を思い起こせば、彼女がその場しのぎで返答したとは、アドリーにはとても思えなかった。彼女はアドリーの訴えを受け入れて、何かをすると本気で約束してくれたのだ。アドリー自身、あの時はハナンや他の子供たちのことを見過ごせなくて、切羽詰まった気持ちでライハーネに懇願したけれど、後で考えてみると、それはライハーネにもそう簡単にできることではなさそうだった。当主のヤフヤ・イスハーク少将は夫人の意見を聞き入れてくれるだろうか? もし夫人が夫の許しを得られず約束を実行できなかったらと想像すると、アドリーはライハーネに無理を言ってしまったのではないかと気が気ではなかった。


だが、農園の中に入った途端それは杞憂だったことをアドリーは知った。


既にライハーネはいつも昼食時に使うテントに子供たちを集めていた。全員が集まったら話をするつもりらしかった。テントの下のテーブルの上には、子供たち全てに行き渡るほど十分な量の朝食が用意されていた。


扇のように四つに切って何層にも積み重ねられた円形の薄焼きパン。ガラスの器にはたっぷりとあんずといちじくのジャム。いくつかの大皿には彩りよく取り合わせて盛られたチーズに茹で卵、塩漬けオリーブの実・トマト・胡瓜・ミントの葉にかりかりのクルトンを散らしたサラダ。ライハーネが次々カップに注いでいく熱くて甘いミルクティー。子供たちは驚き、身体を寄せ合ってテーブルを見下ろしていた。彼らの頬が輝いて見えるのを感じながら、アドリーはその中に加わった。
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