宇宙の病院船(妄想)


□〈13〉
2ページ/4ページ

始業時間になると、ラザックが子供たちの点呼を始め、全員が揃っていることを確認した。


その後、ライハーネがみんなの前に立った。ライハーネは、落ち着いたよく通るアルトの声で話しはじめた。彼女の声には、毅然とした響きと共に、人を聞き入らせる朗読者のような魅力があり、ざわついていた子供たちは互いに笑顔を見合わせながら、すぐにしんとなった。彼女が静かに話しても、端の方や一番後ろにいる子にまでその声は届いた。


「今日から、ここで朝ごはんを用意することにしました。家で朝ごはんを食べていなくても、食べていても、お腹が空いてお昼まで持たないとじぶんで思ったときに、ここへ来て食べてください。仕事の始まる30分前からこのテントで用意しておきます。仕事が始まったら、休憩室に運んで、パン以外は保冷庫に入れておきます。朝一番に食べる時間がなかったら、9時からと10時からの15分の休憩のどちらかの間で食べて下さい。今までお昼に配っていた軽い食べ物は、これまで通り作ります。家での食事の時お腹が塞がってしまわないように、お昼からは少し我慢しましょう。みんな、わかりましたか?」


一番小さい子にも伝わるように、言葉を区切りながらゆっくりと話すライハーネは、幼年学級の先生のようだった。ライハーネの話を聞くうちに、子供たちの間から自然と歓声が泉のように湧き上がり、最後には口々に、
「はい!」
「わかりました!」
と答える声がテントの屋根に響いた。


中に内容が呑み込めずにぼうっとした表情をしている年少の子が何人かいるのを見てとって、ライハーネはそうした子供たちを自分の傍に引き寄せながら、
「みんな、今日は最初だからどれでも食べたいものを食べてね。今日の仕事は30分遅れで始めます。」
と言った。


それからライハーネは引き寄せた小さい子たちに、さっきの話を一人ひとりの反応を見ながらもう一度言い聞かせ、彼らに食べたいものを尋ねては皿から取ろうとした。アドリーはライハーネの側に歩み寄り、数人の子供を引き受けた。ライハーネはなお両腕で二人の子供の肩を抱いて、アドリーに微笑みかけた。アドリーは咄嗟に微笑を返せず、黙ったまま珍しくはにかんだような表情でライハーネの顔を見上げた。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ