宇宙の病院船(妄想)


□〈14〉
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アドリーが母サナムの日常の変化に気付いたのは、母が父ホセインに語気強く何事かを訴えていたその翌日だった。


働きに出るアドリーは、兄弟の中で一番起き出すのが早かった。彼はいつものように、まず同じ部屋で寝ている弟サーミフを起こした。その気配で起きてきた兄バシールがサーミフの着替えを手伝いはじめると、アドリーは今度は母と同じ部屋で寝ている妹アギフに声をかけに行った。今朝は母サナムはかなり早く起きたらしく、すでに部屋にはいなかった。アギフはいったん目覚めてまた寝てしまったのかぐっすり眠り込んでいた。


「アギフ、アギフ、もう時間だ、起きなきゃ」
何度も声をかけ、肩を揺すると、アギフは目を開き、びっくりして半身を起こした。
「えっ、もうそんな時間…? 母さんは?」
「台所じゃないか? さあ、早く着替えて。」
アドリーはこの時はまだ深くも考えずに答えた。


アドリーがようやく自分の身支度をして食卓へ来てみると、父と子供4人分の朝食は調えられていたが、母の席には皿一枚も置かれず、母の姿も見えなかった。ホセインは薄焼きパンと白いんげん豆のスープ、数片のチーズとオリーブのピクルスの皿を前に憮然とした表情で座っていた。


「母さんは?どこに行ったの?」
アドリーは父に尋ねた。昨日の母の様子が記憶に蘇り、思わず詰問するような口調になった。
「心配ない。用事で出掛けただけだ。先に食べて行け。」
父はアドリーの顔も見ず、極力感情を押し殺したような表情と声で言った。後から部屋に入って来たきょうだいたちが、父とアドリーとの間の空気がさっと張り詰めるのを感じとって、足を停めた。


「ゆうべ母さんは何をあんなに言ってたの? いないのはそのせいじゃないの? ちゃんと話してくれよ!」
「黙れ!子供の立ち入ることじゃない!」
アドリーの言葉が終わるのを待たず、ホセインは怒気を含んで決めつけた。


(父さんはいつもそうだ。自分の気に入らないことを聞かれたら、怒鳴って黙らせればいいと思っている!)
アドリーは怒鳴り返したくなる衝動を懸命に抑え、父の顔を正面から睨みつけると、そのまま背を向けて部屋から出て行こうとした。


「母さんがせっかく作って行ったんだぞ。無駄にするのか? ちゃんと食べて行け!」
背後から父の声が響いた。
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