短編*夢

□梅雨の季節
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『はあ…』



梅雨の季節は憂鬱だ。
何だか知らないけど気分が乗らない。

特別体調が悪いってこともなければ、友達と喧嘩したとかそういうことでもない。

この怠さも何もかも、そう、これは全て雨のせいなのだ。



学校からの帰り道。



傘をさして、なるべく、水溜りを避けながら歩く。

今朝セットした髪の毛も雨のおかげでボッサボサのパッサパサ。だから二つに結んだ。

スカートもカバンもだんだんと水を含み始めていた。



そしてそんな私の隣には一つ年上の先輩、イルミさん。一本の傘を共有している。





それは下駄箱で靴を履き替え、さっさと帰ろうと思い傘をさしかけた時だった。



「ねえ」

『はい?』



長期にわたる雨のせいで少しイライラしていた私はぶっきらぼうに返事をしてしまった。

振り返ればそこにはイルミさんが。



『な、何か御用ですか…?』

「傘どっかいった」

『……そうなんですか…』

「いった」

『え』

「た」

『…』





そんなこんなで今一緒に帰っているわけですが、なかなか会話が弾まない。



別に一緒に帰るのは今日が初めてじゃない。

いつもは天気だって良いし何しろ私は普段はハイテンションなわけで。

イルミさんが話さなくたって私が一方的に喋りまくって会話が成立している。


しかし、この梅雨の最悪な天気のせいで私の元気も低下していた。

それにしても何か話さなければ…と私が頭をフル回転させていた時、イルミさんが口を開いた。



「雨だね」

『…あ、はい』



気の利いた答えが返せない自分を自分で殴りたかった。



「雨嫌い?」

『…嫌いです』

「何で?」

『だって…濡れるし髪はうねってボサボサになるし…傘だってさして歩くの楽じゃないじゃないですか』


するとイルミさんは首を傾げる。


「んー…そうかなぁ」



現に今、傘をさしてくれているのはイルミさんで、共感してくれるだろうと言ったのだがそうでもなかったみたいだ。



『まあイルミさんは男ですもんね…筋肉ありますし傘なんて小指でちょちょいと』

「え?いや、そうじゃなくて」

『?』

「確かに濡れるのは嫌だけど、俺は髪の毛うねらないしボサボサにもならない」





そっちかよ!!!!!!!!!



確かにイルミさんの髪の毛は私よりもツヤツヤでサラサラで綺麗だし、私の髪の毛の悩みなんざ分かりたくても分からないでしょうよ!!


尚更気分が落ち込んだ私なんてお構いなしにイルミさんは続けた。



「でも、雨も結構いいかも」

『…?』



私は眉間にシワを寄せた。
イルミさんは一体何を言ってるんだろうか。


雨なんて良いわけないじゃん…。



しかし、イルミさんの次に発した言葉に、私は拍子抜けしてしまった。





「ナマエと相合傘出来たし」





まさかイルミさんがこんなことを言うなんて。



私はあくまで平静を装った。



『…イルミさん、今日は何だかいつもより大胆ですね』

「顔赤いけどどうしたの?」


自分ではいくら普通にしようとしても顔は赤くなってしまうワケで。



私はイルミさんから顔を逸らした。



「ナマエってホント分かりやすいよね」

『…うるさいです』

「その髪型も似合ってるよ」

『⁉︎』



おかしい。



雨の日のイルミさんって絶対おかしいよ。



その後も私は赤面した顔をイルミさんに向けることなく歩き続けた。





普段から無表情なイルミさんが私を見て少し微笑んだことなんて梅雨知らず。




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