勇者達の翌朝(旧書)

□決戦前夜
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旧書「前夜」1の1

前夜、寒い夏の夜、俺達はラズーパーリの縁にいた。

夏なのに、秋のように寒かった。住民を避難させて、ひっそりした空気が、余計にそう感じさせたかもしれない。
「あの島に逃げたのは、不本意だったのでしょうね。」
とエスカーが言っていた。事故の調査の後、島の施設は全て停止していて、各種装置の動力もなし。警備員すら置かず、無人で放棄していた。
「閉じ籠ったつもりだったかもしれないけど、逆に閉じ込められたようなものです。」
エスカーを始め、皆は、住民を避難させて、あとは決着をつけるだけ、と考えていた。ディニィだけは、
「そのわりに、何だか余裕のある、不適な態度なのが気になるわ。魂だけで、どれだけ持つかわからないけれど、何か、待ち伏せされているみたい。」
と気にしていた。
俺は彼女の慧眼に恐れ入った。
エパミノンダスは、今、全属性を手に入れている。ただし、自在に行使するには肉体がいる。俺がホプラスを助ける時に、彼の肉体の中に入らなければ、うまくやれなかったのと、同じだ。奴は、奴等は、肉体を待っている。しかも、できれば、おそらく、エパミノンダスが目指していた、究極の魔導師にふさわしい者を。
魔法力を基準にすると、エスカーかディニィだ、とか考えるのが自然だ。ただしディニィは聖魔法使い、神官だ。神官は、成長と能力に応じて、聖魔法の結晶を体内に入れ、魔法力をあげていく。このため、属性魔法は使えない。
だが、「融合」には、相性がある。俺とホプラスは偶然、極めてよかったが、エパミノンダスとエスカーはどうだろう。魔導師なら知識欲はある。しかし、
「なんにつけても、奴がラズーパーリに一役買ってたなら、ここで退治するのは、いい決着だな。」
とルーミが言った時、エスカーは心から賛同していた。
そうして、決戦前夜、俺は、ラズーパーリの橋に立ち、街の南側を見ていた。
教会は、南側から少し入った、小高い丘にあった。ルーミの両親の店は中心部で、店のある街中にはイベントのある時だけ開ける礼拝堂や、観光用の教会や、小さい子供用の学校が近かった。父は時期にもよるが、二、三日に一度は街にでた。
最初に、学校に挨拶に行った時だと思う。この地方では、学校は義務だが、毎日ではない。だから、基本、宿題は無しで、出されても、回収には困るから、と、校長が父に説明していた。(当時のホプラスは五歳だったので、「父さんが学校のこと話している」くらいの認識しかなかったが、父は講師も引き受けていた。)
校庭で子供達が叫んでいた。喧嘩が始まり、騒ぎになっていた。やや大きい男の子達が、縄や輪みたいな玩具を振り回して、彼らより、小さな男の子を、よってたかって痛めつけていた。
俺は思わず中に割って入った。彼らのうちの一人が、棒切れを振り回し、俺に当たった。俺は吹き飛んで気絶した。
気がつくと、知らない部屋でベッドに寝ていた。原始的だが、俺の頭は、氷嚢で冷やされていた。
その氷嚢に、小さな手が触れていた。
オリーブグリーンのぱっちりした目。額と左手に何か貼っていた。湿布か包帯か。額の白にかかる髪は、金糸みたいにきらきらしていた。
さっき、痛め付けられていた子だ。赤い服を着ていて、金髪。見覚えがあった。その子は、俺と目が合うと、
「ホプラス。」
と言い、隣の部屋に向かい、
「ホプラス、起きたよ。」
と叫んだ。父、医者らしい男性、校長先生。他にはお腹の大きな金髪の女性と、赤毛で色黒の男性がいた。ドアの向こうに、武器を振り回していた子達と、さっきは見た覚えはないが、女の子が二人と、より小さい男の子がいた。あとは、彼らの親らしい大人が何人か。
父は、「大丈夫か、ホプロス。」と、俺に近づいた。ちょうど、金髪の男の子と、入れ替わる形になったが、俺は、その子の手をつかんで、引き寄せた。隣の部屋にいけば、また奴等に武器で殴られるのではと思ったからだ。
男の子は、びっくりした目で俺を見たが、逃げなかった。
それが、俺、つまり「ホプラス」の、ルーミとの出逢いだ。
後で聞いたが、やや大きい子達は、俺より一つ下の四歳で、三歳だったルーミを集団で痛め付けようとしていた。理由は、ルーミがとにかく生意気で乱暴、突き飛ばされて友人が怪我をした、というものだったが、女の子二人の証言をまとめると、「あいつらが、目の不自由な、私達の弟を、毎日苛める。ルーミが止めろって言ってくれたら、先生にばれて、連中が怒られた。それで、集団で、道具まで持ち出して、仕返ししてきた。」という事だった。
結局、殴られて怪我をしたのが、新任の聖職者の息子の俺だったため、襲った連中が、ルーミが悪いと主張するか、正直に言うかで揉め、その過程で、女の子二人の言い分が正しい事が証明されてしまった。
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