勇者達の翌朝(旧書)

□紺碧の真珠
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旧書「紺碧の真珠」1の1

全てが合わさると、白くなるんだな、ルーミがそうつぶやき、諦めるように目を閉じていた。

   ※※※※※※※

島の建物は廃墟で、不気味な様子をしていた。
モンスターはタフで、倒しても倒しても立ち上がる者もいる。戸惑ったが、死体にエレメントが入っているためのタフさだとわかった。
慣れないタイプにはなるが、回復能力はないため、足や羽を攻撃して行動不能にしてしまえば、恐れるに足りなかった。
「こんな事なら、神官を何人か借りてきたのに。」
とエスカーが言った。ラスボス戦を控えて、ディニィの負担を軽くしたいが、このタイプには聖魔法がよく利く。
「それだと、彼女たちを守るために、盾持ちを増やさないと。結局、人数を絞って、この形になってると思うわ。」
ラールが答えた。キーリは、死体に刺さった矢を抜いて、毒素の侵食がないものを選んでいた。サヤンはモンスターを蹴飛ばした時に間違って触ったので、毒素で腫れた足に、ディニィから回復を受けていた。ユッシはキーリに、「コーティング矢」の性能について尋ねていた。
俺とルーミはいつも通り、パーティの先陣にいた。死体系のわりに、悪臭がなく、全体的にからっとしていた。
「水のエレメントの研究所だったはずだよな。なんでこんなに乾燥してるんだ。まあ燃えやすくて助かるけど。」
と、ルーミが、俺に聞いてきた。
「だからって、他のエレメントが豊かなわけじゃないしなあ。エパミノンダスが吸収してるのかな。」
聞かれても、俺も見当がつかないが、今のところ、ルーミがいうのは、一番可能性のある答えだろう。
敵が立てこもっているのは、最奥の実験棟だと思われたが、探知の結果、その手前にある「礼拝堂」の可能性が高いとわかった。職員用に、きちんとした物を建てたかったらしいが、予算かスペースの関係で、イベントホールを転用していた。特に特別な装置はないので、「罠かも」という意見がでたが、どっちにしろ、途中にあるため、寄ることになった。
前衛を俺達の他、ラールとサヤンも加え、「礼拝堂」の入り口に近づく。
その時、誰か叫んだ。サヤンだと思う。彼女は、飛んできた何かを避けたが、足をとられたなのか、勢いよく転んだ。続いて、ラールが、ルーミに「避けろ」と言ったが彼女も転んだ。
ルーミは、彼女たちを助けようとしたが、何かに絡めとられる。煙。火の臭いはしない。ガス攻撃にありがちな異臭もない。
前衛四人を内側に、礼拝堂のドアが閉まった。俺はドアに向かったが、開かない。
サヤンとラールは倒れていた。ルーミが彼の近くのラールを、俺がサヤンを見る。意識がない

ガスではないようだが、薄い真珠色の靄の様なものが、礼拝堂の中心部、演壇から出ている。エレメントが特定できない。
ルーミが、
「エレメント…全部合わさって真っ白に…?」
と言い、そのまま倒れた。駆け寄ろうとした俺は、一瞬、意識が重くなったと思ったら、次の瞬間、反対に、嘘のように軽くなるのを感じ、戸惑う。
軽い。俺しか、いない。ホプラスが、感じ取れない。
“邪魔な連中には、眠ってもらった。”
真珠色の真ん中に、エパミノンダス、いや、彼だけではない、多数の人間の気配がする。しかし、同時に、彼らは一つの意識になっている。
“完全な物、この世界の最高にして、最強の物になり、全てを手にいれるには、超越した世界の意識がいる。すなわち、貴方だ。”
奴の声は古いタイプの人工音声のようだった。もしくは、人間の声だと思い込んで、弦楽器の音を聞いていて、途中で気がついた時のような、違和感のある「音」だ。
ホプラスは「眠って」いる。この軽さは、守護者の俺の意識だけだからか。
この「技術」、エパミノンダスは俺達サイドの者だろうか。大昔は、融合時に、いくつかの条件が重なると、回収後も分離出来なくなり、そのままワールドの魂になるケースが、稀にあった。しかし、今は分離技術が進み、何年もそういうケースは出ていない。あったとしても、ワールド放置はされず、回収後、「適切な者」は俺達の側に、「不適切な者」は、分離技術が向上するまで管理・保存されているはずだ。
仮に、このワールドに、そんなケースがあったとしても、ラスボスに回って、本来の勇者の邪魔をするまで放置するなんて有り得ない。
だが、狙ってやってた可能性は否定できない。異次元のラスボスは珍しくないし(その異次元が俺達の世界、というのはさすがになかったが)、「不始末」を、もののついでに、勇者に「始末」させる事にしたのかもしれない。
“我々は、神の貴方を取り込み、完成する。貴方の全能は代わらない。世界の為に、協力してくれ。”
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